image

05

気がついたら、何事も無かったかのように、まわりが全て、元通りになっていた。
とは言っても全てが元通りになったのではなくて、わたしの負った傷はそのままで、ぼろぼろの体をなんとか動かして胸元の呪符のところをみるとやはり、少し広がっている。この呪符のおかげで、わたしは生き延びたらしい。
それにしても、あんなにも満ち足りた気分で、わたしは死に向かおうとしていたというのに。あの時ばかりは「あの声」も頭を離れ、ハナからユウを守って死ねたら、それでいいと思っていたのに。
やはりわたしは死んではならないと、そういうこと、なのだろうか。戦っているときから……いや、違う。任務に来ているときからずっと続いているおかしな、夢を見ているような気持ちの悪い気分は、まだ続いている。
ああ、夢の中のあの声が、まだ、わたしに告げているのだ。繰り返し見る夢の中のように。「生きていて、」と。
ただ転がっているばかりであったわたしの体を、誰かが揺する。誰であろう、なんて思う必要は無い。あのノアの人は死んだのだ。

「ナノ。…… 生きてるな」
当然、ユウだ。わたしも、ユウもぼろぼろで、今回の戦いはお互いイノセンスを解放したせいで、体の傷はまだ治りきっていない。
ユウの団服はスキン・ボリックの雷のせいで破けて、燃えてしまったからか、上半身が丸見えだった。胸元の呪符が、大きく広がってしまっているのがよく見えた。
「生きてるよ、動けないこともないし。イノセンスだって、壊れかけだけどちゃんとある」
「そうか。ならいい」
起き上がってふと見ると、戦いの時に見ていたように、六幻が粉々に割れてしまっていた。今まで壊れたことがないと言われればそうではないけれど、でも、ここまで壊れて、ここまで二人ともぼろぼろになったのは初めてだった。
あの時わたしはユウを守る盾にでもなったつもりだったけれど、当然と言うべきか完全にユウを守りきることは出来なかったらしい。わたしが倒れた後で、きっとユウがとどめをさしたのだ。
「上の方に、みんな居るのかな」
「さぁな」
「何があったのかわからないけど……終わったみたいね」
わたしたちは戦いながら何とかくぐり抜けようとしていた扉をあっさり抜けて、みんなが向かったであろう足取りをたどる。
途中、クロウリーさんがそれはもうぼろぼろになって、わたしたちよりももっとぼろぼろになって倒れていて、驚いた。
それから、それ以上に泣きそうになった。地面に倒れている彼は生気がなくて肌の色も不気味な程に白く、まるで死んでいるように見えたから。
ユウが彼を担ぎあげた時にわずかだけれど呻き声が聞こえて、わたしはよかったと胸をなでおろした。また失わずに済んだと、さっきとは違う意味で泣きそうになった。この長期任務でわたしたちは、少なくともデイシャとスーマンを喪っているのだ。
今回の一件は、彼ら千年伯爵側にとってはほんの、お遊び程度だったのだろうか。
だとしたらあまりにも。この戦争は無謀すぎる。
なんで、どうして教団は、こんなにも無謀な戦いを、もう何十年と続けていられるのだろう。
とっくに折れて、動かなくなっていたとしても不思議はないのに。
「ユウ、わたし、生きていられるかしら」
ぽつりと呟いた言葉に、目の前を歩くユウからはすぐに返事は来なかった。
ただ、暫く歩いてふと足を止めたところで、ぽつりと吐き捨てるように呟く。
「生きる為に戦ってんだろ」
「……そっか」
そうだ、きっと、その通りだ。
弱くて、ちっぽけで、あやふやなわたしは、直ぐに何もかもを投げ出して、逃げてしまいたくなる。
わたしたちはエクソシストだ。特にわたしやユウなんかは、戦うために生まれたようなものだ。それ以外に生き方なんてある筈がない。
「無事に、帰れるといいね」
「……あぁ」
クロウリーさんを背負うユウの表情は見えなかったけれど、絞りだしたような返事は、ユウの中の葛藤をあらわしているようにも思えた。