
03
いえす、新居。のー、壊れた本部。
お引越しである。
わたしの部屋の少ない荷物はリナリーにお願いしてまとめてもらい、何とか無事に新しい本部に引っ越してきた。何せ本部は広いので引越しの準備期間は結構な間用意されていたけれど、他の手伝いをするにも腕がないことには何も出来ないから、引越しの準備の間終始わたしは約立たずだった。忙しいからエクソシストのみんなも一緒にいてくれるわけではなかったし、読書すら出来ないのでぼーっと忙しなく動くみんなの様子を眺めるくらいしかやることがなかった。そのうち、科学班の手伝いに連れていかれて、それでも何も出来ないからソファーでぼんやりしていた。
リナリーにはコーヒーを勧められたけどそもそも食事は人の手を煩わせるからと断った。そのうち科学班のみんなの作った怪しげな薬のせいでユウとラビが小さくなってしまったり、アレンくんの髪が伸びたり、リナリーとブックマンがにゃーにゃー話すようになってしまったり。
コムイさんの作ったウイルスが原因でおかしくなったティエドール元帥に吸血鬼のように噛まれてわたしもフラっと意識がとんだり、何やら色々あったのだけれど、なんとか新居に引っ越してきた。
見た感じ、新しい部屋は前の部屋とあまり変わらないような気がする。新しい場所の匂いにはあまり慣れなかったが、三日も眠れば、ここが新しい場所だという感慨は消えてしまった。わたしの周りにいるみんなが、あまり、新居にはしゃいだりするような性格ではなかったことも影響しているのだろう。
引越しの片付けをいざ誰かに頼もうかどうしようか、というような時になって、ようやく腕の腕が再生が終わった。ここまで時間がかかったのは初めてだったけれど幼い頃からよくあることでもあったので、わたしは今更何も気にしていない。アレンくんやらミランダさんやら、最近来た人たちには随分とびっくりされてしまったけれど。
一応、わたしとユウの出自については箝口令がしかれているらしいので大っぴらに説明する訳にもいかなかったし、深い説明はせずに無理やり誤魔化してしまった。
腕が再生して二日もすれば、また元通り動かせるようになって、それくらいから、また任務が割り振られるようになった。
わたしが復帰して最初の任務は、まだまだ中央庁のリンクさんが監視についている、アレンくんとの任務だった。ユウとはまた、別行動だ。
「本当に腕は大丈夫なんですか?」
アレンがこちらを振り返って聞いてくる。
「大丈夫だよ」
わたしはひらひらと指を振って見せた。本当にもう、何でもないのだ。
「でも、取れた腕が再生するなんて、ナノの体どーなってるんでしょうね……」
「あはは、まあね。ちょっとふつーじゃないだけだよ」
わたしはいつもいつも、こういう風に自分のことを誤魔化してきた。心配してくれる人の優しさに対して、ユウのようにツンと顔を背けることなんてできないから、わたしが選んだのはそういう曖昧な言葉だ。
みんなはその言葉の後ろ側に気づいているのかもしれないけれど、大抵は、それから掘り下げられることもない。
「羨ましいようなそうでないような……」
「アレンくん、左腕が吹っ飛んでも大丈夫だったじゃない。そんな感じなのよ」
我ながらブラックジョークだ。わたしは結構失礼なことを言ったのに、アレンくんはけらけら笑った。
「僕の左腕はナノみたいにとれても、イノセンスですから再生する前にアクマに持ってかれちゃいそうですね」
「困るなぁ、すごく困る。きっとユウが取り戻してくれるよ」
「そこはナノじゃないのか」
「わたしじゃあ、無理かなぁ。でも足止めなら任せてね」
「なら、その時はお願いします」
「そんな時は来ない方がいいんだけどね」
久しぶりの戦いの感覚はちょっぴり慣れない。腕につきまとう違和感から目を背けつつ、わたしもけらけら、笑った。
アレンくんのうしろにぴったりと張り付きつつも、わたしたちの会話に入ってくることのないリンクさんはどこか不気味だ。
中央からの人である彼に、わたしはあまり良い印象を持てない。アレンくんには悪いが、何だか気まずいなぁと思いながら、わたしは帰路を急ぐことにした。帰って、ユウがいるのかは分からないけど、彼に会いたかった。
少しでも不安になると、すぐにユウに会いたくなるのである。