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04

腕がとれたばかりで、体のあちこち、色々と脆くなっていたのかもしれない。
アクマの攻撃が掠めて体についた小さな傷が、あっという間に致命傷だ。
こういう時、たまらなく自分の体が嫌になる。
「あーあ、」
弱い。
わたしってば、本当に、弱いなぁ。
簡単に死なないように、強い体を与えられている「セカンドエクソシスト」なのに、わたしの中でその強さはしっかりと形をなしていない。
そもそも目覚めたばかりの時なんて、再生能力自体発現していなかったのだ。その頃は転んだだけで死にかけて、エドガーの顔を真っ青に染め上げていた。それくらいわたしの体の弱さは折り紙つきである。
崩れてしまった石造りの家だったもの、瓦礫山の隙間から見える青空を見つめながら小さくため息をついた。石造りの街並みは嫌いじゃない。なんだかんだ、見ていて綺麗だ。でも、崩れてしまうと綺麗も何もなくて、虚しさばかりが残る。
一緒に任務に来ていたユウともファインダーさんたちともはぐれてしまって、どうにかこうにかイノセンスを駆使して瓦礫を避けられないかと思ってみたが、わたしの背丈の倍以上ある、この大きな瓦礫を退かすことは無理そうだったし、これが退かなければわたしはここから出られない。アクマはさっき壊したし、ゴーレムを取り出せば、直ぐにでも助けに来てくれるんだろうけれど、言ってしまえば腕を動かすのも辛かった。大きな瓦礫の下敷きになっているのは足だけれど、腕を動かすこと、体を動かすことがこの上なく億劫だ。体中色々、ものすごく痛いのだ。
ユウとか、アルマだったらこういう時、怪我はさっさと治るのだろうし、小さなかすり傷が致命傷にまで広がらないだろうし、そもそもその素晴らしい身体能力でこんなことにすらならないのかもしれない。
出来損ないのわたしの体は、怪我が治るには治るくせに、普通の人間と比べても尚、ひどく脆い。
小さな傷からどくどくと血が流れていくのを見ていると、そろそろもう、諦め時なのかなぁとも思ってくる。
そして、そうやってわたしが諦めそうになった時に決まって、声がするのだ。
「貴方だけは生きていてほしいの。あの人も死んでしまったけれど、貴方は、生きていてね。私の大事な――、」
耳の奥に焼き付いている、彼女の声。
やわらかくこちらを照らす春の太陽のようにあたたかで、優しげで、それでいて切実な重々しさを孕んだ声。今のわたしには何が何だかよく分からない、わたしが唯一知っている「わたし」の記憶。
わたしは前のことをほとんど、思い出していない。「わたし」の顔も名前も、死に際すら知らないというのに、ただこの女性の声だけが、脳裏にこびりついて離れない。
ユウが「あの人」と呼ぶ女性が誰なのか、わたしも知らない。彼女の顔も知らないけれど、わたしにとっての「あの人」は、この陽だまりのような声の主だ。
この声が響くとわたしは、生きていなければならないと思う。いつもいつも、諦めそうになるのに、早く、アルマのところに行かなければと思うのに、この声ひとつで生きなければと思ってしまう。
大切な仲間よりも、大して覚えていもしないあったこともない女性の言葉を、わたしは信じてしまう。
ただ、死ぬ勇気を持っていないだけなのかもしれない。死にきれないだけなのかもしれない。
ただ、わたしが生きてこられたのはもちろんユウという存在ありきであるけれど、この声のおかげでも、あるのだと思う。
「そっかぁ、まだ、駄目なんだね」
頭の中に響く声に、わたしは自嘲した。
まだ、駄目なのだ。まだ。
ポケットからゴーレムを取り出す。腕自体にはさして傷はないから、気だるいだけで特に問題は無い。
「わたし、当分あなたのところには行けそうにないわ、アルマ」
ごめんなさい。そう呟いて、目を閉じた。