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05

「お前、いい加減にしろよ」
瓦礫の中で仰向けに転がるわたしに、ユウが青筋を立てて言った。この上なく不機嫌そうだった。
「あはは、ごめんなさい」
わたしは、おどけて笑って見せた。
血塗れのわたしに近づいてきて、ユウがそっと、助け起こしてくれる。わたしはヘラヘラ、笑ったままだ。
「こないだ腕もげたばっかだろ、またこんな怪我しやがって」
「うん、ごめん」
余計なことは言わなかった。わたしは静かに、ユウにごめんと謝る。
「戦ってる時に、俺から離れるなよ。あんま離れられると、守りきれない」
彼が助け起こしてくれるのも、こんなふうに見捨てないでくれるのも、きっとわたしだけなんだろうなぁと思うと、何だか酷く嬉しかった。こんなにボロボロのくせに、嬉しくてたまらないなんておかしい。馬鹿みたいだと思うけれど、それでも、嬉しいものは嬉しいのだから仕方が無い。
抱えあげられて、ユウの体温を感じていられるのがとても、嬉しい。わたしよりも高い、あたたかい温度を感じていられると安心できる。
大丈夫。
そう思える。
わたしは、まだ、生きていられる。
「ごめんね、」
わたしの言葉の奥で潜む名前は、ユウのものじゃあ、なかった。
泣きたくてたまらないけれど、これ以上水分を失う訳には行かなかったから、ぐっと堪える。ツンと鼻の奥が痛い。
「お前、本当に馬鹿だ、ナノ」
ユウの声は、自分に、言い聞かせるようだった。
怪我をすると、わたしは気弱になる。だから、ごめんね、なんて、言っておきながら、ここにもし、アルマが居たらと、思ってしまう。
弱気になると、いつもそうだと思う。
なんだかんだ言いながら、折り合いをつけたつもりでいながら、わたしはアルマと一緒にいたいと思っている。いや、多分、わたしは、三人で幸せになりたかった。
三人で幸福になれたなら、他には何にもいらない。今でも、本気でそう思う。
一緒に、並んで、手を取り合って笑いたかった。世界に三人ぽっちになってしまってもそれで良かった。ただお互いがいれば、それで良かったのだ。
でも、そのくせをして、結局、アルマの手を離したのはわたしだった。
壊したのはユウだけれど、その手を振り払ったのは、他でもないわたしだったのだ。アルマは、確かにわたしの方へ手を伸ばしたのに、「ナノ」と、呼んで、わたしの手を取ろうとしてくれたのに、わたしはただアルマが怖くて、その手を振り払った。あんなに優しかったエドガーたちを躊躇なく殺したアルマを見てしまったから、わたしは、震えながらアルマを裏切ったのだ。
わたしがあの女性の夢を見始めたのは、アルマが死んだ後からだ。
ユウにもまた、頭の中に声が響いて脳裏に浮かぶ女性がいる。
ユウはその人に会うために、アルマを切った。どうしてアルマを殺したのだとわたしに詰め寄られた時に、ユウは全てを淡々と告げた。第二使徒計画のことも、目覚める前のユウのことも、彼の頭に浮かぶ「あの人」のことも。ユウの目は真っ直ぐで、どれだけわたしに非難されても、何も揺らがなかった。その潔さが、眩しかった。
わたしはどっちつかずで、どちらでもなくて、頭の中に響く彼女の声と、血まみれで笑うアルマと、二人から、真反対なことを言われて、思考も記憶もいつだってぐちゃぐちゃだった。
アルマを裏切ったわたしは、今日も無様に生き長らえている。いつ死ぬのだろうとこれまで色々な人達に幾度も言われたけれど、それは多分、わたし自身が一番思っていることだ。
ユウの背におぶられながら、ぼうっとしていると、勝手に涙が、溢れてきてしまった。泣かないようにしていたのに、わたしの涙腺は随分と緩いらしい。
「背中、あんま濡らすなよ」
余計なことを言わないでくれるユウは、口下手なだけかもしれないけれど優しい。その優しさに甘えきって、依存しきって、わたしはこれからもユウに守られていくのだろうか。