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02

どうやら今日は割合みんな、鍛錬に来ていたらしい。ユウに引っ張られながら広場に行くと、もう幾人ものエクソシストやファインダーやが、あちらこちらで組手をしたりしていた。
わぁ、なんて場違いなんだろうといつもいつも思う。わたしみたいなのが入っていけるはずがないくらい激しい組手や打ち合いに、思わず頬がひきつる。
「ラビも居たんだね」
気を紛らわせるように、ユウに絡みに来たラビにへらりと笑いかけた。
「おうさー。ユウが遅いとおもったら、ナノのとこ行ってたのか」
「うん。いつもどおり起こされたよー」
わたしがいうと、ユウはそっぽを向いた。相変わらずラビにユウと呼ばれて、機嫌を悪くしたらしい。
それから、やっぱり名前を呼ばれて声の方を向くと、珍しい組み合わせが目に入る。
「マリと、アレンくんだ。おはよう」
「おはようございます。皆さん早いんですね」
「こんなん遅いくらいさね」
ラビがからりと笑って、アレンくんも微笑んだ。ここのところ思いつめた表情の多い彼だったが、どうやら、少しは気を紛らわせているらしい。
十四番目のノアのメモリーとやらが埋め込まれている彼は、方舟を操作する権限を持ち、エクソシストとして優れている一方で、ノアとして覚醒する危険性があるとかなんとか。ノアは、エクソシストの、教団の敵である。
もしそうなったら、彼を殺せとわたし達は命令されている。無期限で執行され続ける、最高重要度の命令だ。
リナリーはそれを聞いて複雑そうな顔をしていたけれど、わたしはそうなのか、と思っただけだった。突拍子もないことだったせいか、あまり現実味を感じなかったからだろうか。
「おいナノ」
四人でわちゃわちゃ話していると、蚊帳の外だったユウが声を上げた。
結構、不機嫌そうな声だ。いや、ユウの声といえばいつもいつもそんな感じである。彼が楽しげな、何の憂いも無い声を出した事なんて、本当に、数える程しかない。
そう思うと、もしかしたらわたしじゃあ駄目なのかな、なんて、思う。
わたしはユウの友人に、妹のような存在に、同胞になれても、彼の探している、「あの人」には決して成れない。
「なぁに、ユウ」
あんまり変なことを考えていると、気分が暗くなって、泣き出してしまいそうだ。ただでさえわたしは、本当によく泣くのに。
全部を押し隠すつもりでへらへら、口元を歪めてユウのもとに駆け寄る。全部隠してしまうのはきっと無理だけど、隠しているつもりで、十分なくらいだ。
「あんま、無理に笑うなよ」
「え?」
「そうやって笑ってる時のお前、彼奴に似てる」
そう言ったユウの目からは光というものがなく、とにかく、辛そうな顔をしていた。
「ユウ?」
「……何でもねぇ、さっさとやるぞ」
声をかけると彼は軽く頭を振って、まるでそれが思い起こしたアルマの影を、振り払っているようで、何だか悲しくなった。
ぐぇっと呻いて、わたしがまた敷き詰められた石にへばりつく。ユウは思いきり投げるし蹴るし殴るし。とにかく体中が痛い。
「いたい……」
背中がバッキバキだ。何度投げ飛ばされたかわからない。その度に治るとはいえ、多分この場所にいる誰より、わたしは怪我をしているだろう。
「ナノ。お前、弱すぎ」
「……ごめんなさい」
目の前に手を差し出してくれたユウの手を取りながらなんとか起き上がる。しゅうしゅうと音をたてる背中が、いつもの事なのに何だかくすぐったかった。
「相変わらず便利な体さ」
「そんな良いものじゃないわ」
茶化すようなラビの言葉に頭を振って否定する。ユウがまた、怒りだしそうだった。
「ほら、次やるぞ」
ユウが言う。ラビが変なことを言うから、これで終わりの雰囲気だったのに、次が付いてきてしまった!
恨みを込めて、ラビを見ようとしたその時に、ドン! と大きな音が響き渡った。
何事だと広場の入口を見れば、赤い外套の暗部の男達と、それからイノセンスを発動しているアレンくんが見えた。
「何、あれ……」
呆然とそう呟くわたしの声に被せるように、その中の一人、髪の長い男が笑った。
「我々、半アクマ化しておりますのでイノセンスを受け付けないのです」
白目のところが黒く深い闇色をした目。真っ赤な血のような虹彩が光っている。
半アクマ化。何、それ。
呆然とするわたしを放って、赤い外套の彼等は当然のように、そこに居座り、我が物顔でアレンくんやユウにだって劣らないレベルの鍛錬をはじめたのだった。