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05

次第にぼんやりと意識が浮上してきた。何があったというのだろう。
目の前にはぼんやりと白い壁と、誰か立ち尽くす人影があって冷たいガラスの感覚が、頬にあった。
「な、に……」
口の中だけで小さく呟いた。頭と、足がぼんやりと痛かった。気を失う前にわたしは一体、何があったのだっけ。
「神田、それに、ナノ……?」
すぐそこからよく知っている声が聞こえる。アレンくんの、声だった。
「これって、どういうこと?」
わたしは本当に、何がどうなっているのやら分からなかった。思考も、ろくに回っていなかったのだと思う。
わたしは任務で赴いた場所で、確かノアに撃たれたのだ。右足を持っていかれて、意識があると面倒だからと、頭を撃たれた。
音と煙を立てている自分の頭がなんだか壊れた玩具のようだとぼんやりと考えていた。体が、重い。
ただ、どうやらアレンくんの様子を見るだに今は決して油断のできるような状況ではないらしい。それに、彼は神田と言った。ユウがこの近くにいるのだろうか。
ふらふらと起き上がって、わたしはまず初めに、下を見た。
冷たく透明なガラスの向こう側にたくさんパイプが流れている。たくさんのパイプはわたしのすぐ側を中心に集まっていて、中心には人影があった。
視界の端にさらさらと黒い髪が見えた。
「ユウ……それから、これ……」
ユウはわたしのすぐ脇にいた。ちらりと見れば、目が合った。
そして、床にはられたガラスの向こう側の人に視線を向けた。
長い髪の人だ。体は継ぎ接ぎだらけで、壊れかけでボロボロの人形のようだった。眠っているらしく、目を閉じていた。目尻にいくにつれて長くなる睫毛が、僅かに揺れている。長いユウとおなじ年頃の、男の人だ。
知らない人のようだった。みたこともない格好をして、知らない傷を作っていて、生きているはずのない人だった。
「……アルマ?」
頬を伝ったのは、涙だった。
「違う」
わたしの言葉をユウが断ち切った。
「其奴は、俺達の知らねぇ奴だ」
……そうだ。ユウの言う通り、アルマが生きているはずがない。あの時、わたしは確かに動かなくなった彼を見た。
でもわたしにはわかる。もちろん、ユウにもわかっているだろう。透明なガラスの向こう側にいるのは、紛れもないアルマだ。わたしたちと同じ歳頃まで成長した彼だ。
「ソレはアルマ=カルマですよぉ! 神田ユウが壊して、神田ナノが見捨てた!」
巫山戯きった声が頭上から聞こえてきて、見上げるとそこにはたくさんのノアがいた。
わたしが見た、こちらを取り囲む立っている人影は科学班の人達だった。彼らはなにかに操られているかのようにみんな同じポーズをして立ち尽くし、こちらをじっと見つめている。
褐色肌のノアの中にはわたしを撃ち抜いたそれはいなかった。一緒にいたはずのサードエクソシストたちも、元帥もいない。あそこにいた中で、放り出されたのはわたしだけだったらしい。
ノアたちに囲まれた千年伯爵が楽しげに、こちらを馬鹿にしたように笑っていた。
「でも……」
ガラスの向こう側の人は確かにアルマだった。確かに、それはアルマだ。わたしには確信があった。きっとユウにだって同じ確信があるはずだ。わたしたちがお互いを間違えるはずがない。彼は確かに、アルマなのだ。
僅かに上下する胸元が彼が確かに生きているのだと告げている。眠っているが、確かに、彼は生きていた。
−−でも。
わたしは言い募った。
だって、アルマは死んでいる。彼は確かに、死んだのだ。
「生きてたんだよ! 死に損ないとして九年間も教団に利用されてた!」
すぐ近くで高い女の子の声がした。小さくて可愛いお人形が、ぴょんぴょんと跳ねながら楽しげに声を発している。
「……彼奴は死んだ」
彼等の言葉をぴしゃりと切り捨てて、ユウが立ち上がった。まるでわたしを守るように、わたしの前にまっすぐに立つ。
対してわたしは、立ち上がることも出来なかった。体中の力が抜けて、ぽろぽろと涙がこぼれてくる。