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寒かった。いや、違う。過去形じゃなくて、現在進行形。ビー動詞と、アイエヌジー。寒い。
あ、寒いって進行形なんてなかったっけ。日常的に英語を使ってるくせに、うまく使いこなせていないなんて。わたしの頭の出来が残念なことが露呈してしまう。いやいや、設定としてだけれどわたしは一応、英語圏の生まれではないのだから仕方がない。……ということにはならないだろうか。多分、ならないんだろうなぁ。
そもそも目覚めた時から英語が公用語みたいな場所で育ったし、わたしが分かる英語以外の言語は中国語くらいなものである。頭の作りが残念すぎて、色々な場所を旅したはずなのに言葉はちっとも身についていないから。
馬鹿みたいな考えに、ため息をつく。
教団はその特異性故かとてつもなく辺鄙な場所にある。まるで悪の大結社のようなひっそりとした雰囲気はなんとなく好きだけれど、それでも高い山の上に建っていることに変わりはなく、とびきり寒いものは寒いのだ。昼になってくればこれもちょっとは落ち着くのだとわかっていても、朝の寒さばかりは耐えようがない。
わたしは、体が弱い。
バクさんを初めとしたアジア支部の面々によると、これは異常なことらしい。
胸に埋め込まれた呪符の効果で、セカンドエクソシストというものは体が強くなるように出来ている。それなのにわたしの呪符は、ユウや、アルマのようには上手く機能していないのだ。体自体が脆く、どんなに頑張っても筋肉はつかないし、些細なことで骨が折れたり、風邪をひいたり、当然お酒にも毒にも弱い。バクさんはその原因を、わたしがセカンドエクソシストの中で唯一の女性の被検体だったからではないか、なんて話していたけれど、本当のところは分からないままだ。
呪符のない普通の人よりも、貧弱なわたしは、当然、暑さや寒さにも弱い。
……そういえば、わたしの目が覚めた日も、こんなふう寒い、いや、もっともっと寒い、冬の日だったっけ。吐く息だって何処までも白い、凍えるように寒い冬の日だった。寒さのせいで、わたしの顔を覗き込むユウとアルマの鼻の頭が赤く色づいていたのを覚えている。
がくがくと細かく震えそうになる体を押さえつけながら、わたしは広く長い教団の廊下を歩く。歯がガチガチ鳴るのは女の子としてさすがに恥ずかしいので、知らぬ間にガタガタと揺れたがる口元に、必死に力を入れていた。一緒にいるのがユウとはいえわたしだって、やっぱり少しは、恥ずかしい。
まだまだ眠い盛りにユウが部屋に入ってきたと思ったら、任務だから着替えろ、と傍若無人に言い放ってきた。
ドアの外から聞こえてきたリーバーさんの一応女子なんだから気を使えという言葉をユウにも飲み込んで欲しかったり、しなくもない。せめて、という言葉に引っ掛かりはあるけれど。一応ってなんだろう、一応、って。わたしは立派な女の子だけれど。リナリーとは違うということだろうか。
まあ家族同然のわたしたちの仲ならばそんなのは、部屋に入るくらいは今更のうちなのだけれども。昔は同じ部屋で寝起きしていたし、何もかも今更だ。
「寒い寒い寒いさむーい! 教団の朝ってどうしてこんなに寒いのかしら」
「知らねぇよ。つーかナノ、朝からうるせぇ」
「ユウったら酷い。わたしだって一応まだまだ十六歳の女の子なんだから、身支度にだって時間がかかるっていうのに。それをただ着替えただけで連れてこられたのよ? リナリーなら絶対に怒ってるとこだから」
「はぁ? そもそもお前らそんな格好してるから寒いんだろ」
いろいろ言い合っていたけれど、そっぽをむいて言い放つユウの指摘は最もだった。もっと言えば、身支度を十分に整える時間が無いのは、わたしが自分では起きられなかったからである。
それに寒いのはユウが言う通り、服のせいもあると思う。わたしの団服は殆どがリナリーとお揃いだ。唯一違うところといえば、靴だろうか。リナリーのイノセンスは靴の形をしている。
団服の素材は一級品だとかタイツだニーハイソックスだと、なんだかんだ言ってもミニスカートな訳だから、これじゃあ足が冷えてくるのなんて当たり前で、わたしが言い返す言葉なんてみあたらない。
「もう、いいわ。早くコムイさんのところに行こ。科学班のとこは暖かいだろうし!」
叫ぶようにそう言って駆け出したわたしに、ユウは呆れたように大きく、わざとらしいため息をついてついてきた。