その日は久しぶりの休日。神経を使う任務も、何にもない。
だから1日ゆっくり寝ようと、昨夜から決め込み、目覚ましもセットせず、カーテンをきっちり閉めた。 まぁカーテンに関すればどうしようと朝同然なのだが。
準備万端で眠った私は忘れていた。
その日の重要な予定を。
ぷるぷると気の抜けた音が、私の寝息しか聞こえていなかった部屋に響いた。
私はその気の抜けた、まるで人が言っているような呼鈴で、目を覚ました。
なんという最悪な目覚め。
「チッ。……誰だよ、眠いのに。……はぁい、もしもし」
舌打ちをしつつベッドから這い出た私は、首をポキポキと鳴らしながら受話器を取り、気だるげに電話に出た。
だが、その電話から聞こえてきた瞬間、眠気なんて飛んだ。
「もしもしじゃねェだろ! おい、名前! てめェ今何時だと思ってやがるんだ!」
「ス、ス、スパンダ!」
「ムだ! スパンダム!」
どうしよう。心臓が煩い。
それは多分怒鳴られたからではなく、彼の声を聞いたから。
私が心臓の音の煩さにおどおどしていると、今度は彼から顔色を変えてしまう一言が聞こえた。
「おれは一体、あと何時間名前を待てばいいんだ? ああ?」
声だけでも、彼がイライラしている事が分かる。
「な、何時間? ……あっ!」
時間、それは私が電話に出た時にも言われた。
私は今この瞬間、その意味が分かった。
「あ、じゃねェだろ!」
私の顔色は真っ青だろう。
受話器をそのままにして、時計に目をやると、もう約束の時間を一時間半も過ぎていた。
そう、今日は互いに休みが重なり、久しぶりにデートでも行こうとなったのだ。休みの調整をしたのは彼なのだが。
「ごめん! 直ぐ用意して行くから、待ってて!」
焦った私は、そう相手に言うだけ言うと、電話を乱暴に切り、何時もの倍の早さで用意し始めた。
切る直前に「あ? おい!」という声は無視だ。後でちゃんと謝ろう。
「本当にごめんなさい!」
あれから私は、何時もでは考えられない早さで用意し終わり、職業柄だろう剃や月歩を使い、彼のいる場所へ向かった。
そして私は今現在、目の前の彼に土下座せんばかりの勢いで謝った。
「ったく! 次はねぇからな!」
「はい! それは勿論承知でございます!」
「……お前謝る気ねぇだろ」
ジトリとした目で見られ、ぽつりと呟かれた言葉に、かぶりを振った。
「……はぁ。もう行くぞ! おれは一時間半も待たされたんだ! 今日はおれに付き合えよ!」
「え、あ。うん! って手!」
急に手を握られたのだ、驚くのが普通だろう。
「ダァァ! っるせェな! さっさと来やがれ、バカが!」
「バ、バカじゃないもん!」
ドキッとしたじゃないか、バカが!
私が嬉しさで、目頭が熱くなってるのを、前を向きすたすたと進む彼は知らない。
嗚呼、今日は彼に全てを振り回されるなぁ。
そう頭の奥にいる、冷静な自分が言った。
でもそういう日も、たまには悪くない。
-END-