長期任務という私にとって、死刑宣告に等しいものを言い渡されたのは、つい最近の事だ。いや、もう此処に来てから数ヶ月も経っているから最近の話しではない。
兎に角だ。私の職業柄、こういう長期任務なんてものは慣れっこで、当たり前の話しだが、今回は何時戻れるか、分からないらしい。
「……あのパンダも、何で私にしたんだよ」
この島へ来てすぐに手配された自宅で一人ぽつりと、上司への不満を漏らした。
その上司は、私を長期任務へ出すのを平然とした顔で、言い渡した。 上司なんだからそれはそうなのだが、私達は上司と部下の関係を飛び越えている。
俗に言う恋人同士な訳だ。
まぁ、だからといってあの人が仕事を疎かにするわけはなく、きっちり上からの指令もする。
だから、私は怖いのかもしれない。
この関係はホンモノか否か。
「ふぅ。……」
部屋のソファーに凭れながら、溜まったものを出すように、溜め息めいたものをついた。
息を全部出し切ったところで、電伝虫が鳴り響いた。
「……」
煩く鳴り響くそれを横目に眺めながら、居留守を使おうかなっと思ったが、仕事のことだった場合面倒くさいので、気だるく片腕を上げ、受話器を取った。
「はい。もしもし……」
「おお、やっと出たか。名前、お前出るのが遅ェぞ!」
私は電伝虫が動き出したのを見て、そこから聞こえる声にやっぱりかっと思ってしまった。
「すみません、長官。で、今日は何のご用で?」
多分仕事の話しだろう、と私は思い彼の事を長官と呼んだ。
「あ? あ、ああ。……まぁ」
だが、彼はさっきの勢いはどこへやら、急にしどろもどろになり始めた。
「あ、あれだ! ほら、名前がこの前言ってた……」
何やらゴニョゴニョと言いはじめた彼に、はてっと考えを巡らせた。 私は彼に何か答えを先伸ばしにするような事を言っただろうか、それとも重要な事を言ったか?
「ち、長官。すみません、話が見えないのですが?」
少し遠慮がちに言ってみると、彼は何故か数秒沈黙した。
そしてその後溜め息なんてついた。
「え、っと……」
沈黙が苦手な私は、何か話題をと視線をキョロキョロさせた。
「名前……」
「え? あ、はい」
話題を探していた私は、急に話しかけられ、真面目になった顔の電伝虫に視線を戻した。
「そっちはどうだ? 水の都なんだ、色々観光スポットみたいなのがあんだろ?」
「え? はい、ありますけど……」
何なんだこの人は。本当に話が見えない。
「そうか。……はぁ、やっぱり名前をそっちへ行かせるんじゃなかったなぁ」
「へ? ど、どうしてですか? 私なにかしました?」
彼のいきなりの発言に、目を見開き、目の前にいるのは電伝虫なのを忘れ、それに駆け寄り、縋るようにして見つめた。
「んな訳ねェだろ」
「だったら……」
不安になる私に反して、目の前の電伝虫の――彼の声が少し優しく和らいだように感じた。
「……。名前に会いたくなっちまうからだ! ブァァカ!」
「な、っ!」
言葉が出なかった。
何言ってるの。とか、何恥ずかしい事をとか、何時も言えるはずの言葉が、喉につっかえて出てこなかった。
ただ、心臓が痛かった。
その痛みは、ひとつの苦しみもなく、何故か私の脳に幸福を感じさせた。
「な、何か言えよ!」
「っう、うるさい! パンダのくせに!」
「ああ?! パンダは関係ねェだろ!」
本当にこの人は何なんだ。
心臓が煩いじゃないか、くそぉ。
「ったく。あ、あと名前」
「ふぅ。……はい?」
やっと落ち着いた時に、またこの人は私の心臓を煩くさせる。
「おれのことは名前で呼べって言ってるだろ?」
「わ、分かってるよ! スパンダム!」
恥ずかしいんだよ、まだ。
心臓が不規則に飛びはね、顔はリンゴのように赤くなり、そして受話器を持つ手にも力が入る。
電話がかかる前とは別人になった自分に、恥ずかしいようなよく分からない気持ちになった。
「任務、終わったら……会えるから」
「分かってるよ。ブァァカ」
それまではこうして、お互いの声で繋げよう。
-END-