彼女はまるで猫のようだ。
「おい、名前」
「はーい」
呼ぶと何時もひょこりと何処からともなく飛び出してくる。
「どこから出てきたんだよ」
「内緒です。というより企業秘密」
「なんだそれ。お前はただの海兵だろ?」
そうだ。彼女の仕事は海軍本部に所属する氏がない海兵だ。
だからこの場にいる時点で可笑しい。だが、彼女のこの神出鬼没、というより放浪癖は海軍本部に通じる人間なら誰でも知っている事で、もうそれをとやかく言う奴は本部にはいない。
「そうですけど、秘密なんです。こればっかりは」
「意味が分からん」
そう口にするが、言葉を出していた口角が上がっているのも確かで、こいつと話すのが最近のおれの唯一の楽しみにもなっている。
「それで、どうしたんです? 最近よく呼び出しますけど……」
「いや、特にはねェが。……迷惑か?」
どうしてこいつを呼ぶのか自分でも分からない。ただ、こいつといると、何も着飾らないひとりの男に戻れる気がした。
「全然。というより、スパンダムさんといる時間が好きなので、嬉しいんですよ?」
彼女はおれの目の前にやって来て、そこにある机に腰をかけた。そして悪戯っ子のような顔をし、首を傾げた。
「そうかよ」
何故か彼女の言葉に照れを感じたおれは、ぶっきらぼうにそう答えた。
視線をそらしたおれには分からないが、クスクスと笑う彼女の声が聞こえたので、多分笑われたのだろう。
「笑ってんじゃねェ」
「すみません」
照れ隠しだと自分でも分かっているし、彼女もそれを分かっているのだろう。だから先程から肩がぷるぷると震えている。
「お前は……」
嬉しいようなよく分からない気持ちを隠すように、おれは目の前の彼女の頭をぐしゃりと撫でた。
椅子に座っていた自分だったが、元々身長がそれほど高くない彼女の頭を撫でることは楽に出来た。
「わっ! ……やっぱり私、スパンダムさん好きです」
「は? 名前、いきなり何言って……」
唐突な事で、彼女の頭に乗せていた手が止まった。
「あれ? 気付いてませんでした?」
「き、気付くって……」
然も当たり前のように言うので、唖然とした。
だが、そんなおれを置いて彼女が「結構アプローチしたのになぁ」っとまたとんでもない事を言うので、目が点になった。
「ア、アプローチって」
「スパンダムさん? 私、好きでもない男のところに呼ばれたからって毎回行きませんよ?」
にこりとした笑みでそう言われ、もう目眩がした。
「お前って……猫みてェだな」
「よく言われます」
きょとんとした顔で言った名前にそうだろうなっと思ってしまった。
本当に彼女は猫のようだ。
「で? スパンダムさんはどうなんです?」
「……おれも名前と同じだ。ヴァァァカ!」
またも視線を反らしたおれの耳には、彼女のクスクスとした声が聞こえた。
-END-
JUKE BOX.様お題