生ぬるいこの関係に甘えていた。とても居心地が良かったから。だから私達はいつまでたっても進まない。
「ん……ふっ……んぅ」
「ふ……ん」
石造りの冷たい部屋で男女か重なり合い前後に動き、熱のある息遣いを繰り返しながら互いの唇を奪い合う。
仕事中にも関わらず何をしているんだ。と私は目の前の上司にキスをしながら考えた。
ここは指令長官室で私がキスを受けている場所は、何時も長官がふんぞり返って座っている椅子の上だ。
つい先ほどまで私はこの人に今回の任務の報告書を渡した。だが、それを受け取った時に強引にその人は私の腕を掴み、そのまま自分の膝の上に乗せた。
それからずっと互いに唾液を送るようなキスばかりしかせす、時々唇に寄せていたそれを首筋に這わしたり、曖昧な愛撫を繰り返す。
「ん……スパンダム長官っ」
「黙ってろ」
言葉を交わすことは許されない。
何時からこんな関係が始まったのだろうか。酸素を欲しがる頭でぼんやりと考えた。
だがそれを考えたところで関係の始まりなど思い出せなかった。多分始まりは凄く曖昧で不純な気持ちから生み出した事だったと思う。
そんな過去の事に気を持って行っていたら、スルリと今まで私の後頭部にあった手を肩に這わす感触が伝わった。
「っ! ん……」
「名前……今なに考えてた」
肩に這わされていた手に力が入り、そのまま私を引き離し、長ったらしいキスが終わった。
引き離したその人は荒い息のまま私にそう聞いた。
「はぁ……はあっ。な、にも」
「おれに嘘ついてんじゃねェ」
何時もならどちらかが果てるまで続けるキスが途中に終わり、今は心地の悪い空気がその場を包んだ。
その居心地の悪さに逃げ出しそうになるが、腰に回されている腕にそれを阻まれた。
阻まれた腕を横目に諦めにも似た感情が流れ出し、私はそのままスパンダム長官の胸に倒れこむ様にして頭を預けた。
「なっ! おい! ……どうしたんだよ」
「……」
その問いに答えることはなく、埋もれた胸にしがみつく様にぎゅっと抱きついた。
「……何かあったか?」
「……」
ただただ無言で首を否定するように横に振る。
「名前……おれはエスパーでも何でもねェんだ。話さねェと分かんねェ」
「……知ってます」
そんな事くらい知っている。だけどこのフラフラな感情を読み取って欲しかった。多分それは物凄く不可能な事なんだろうけど。
「なら話せ。……ずっとこのままでいるつもりか?」
「……」
どうせならそうしたかったが、それは無理な話で。だから、しがみつく様にしていた身体を脱力させ、ぽつりぽつりと話してみた。
「……私は、ただ甘えていたかっただけかもしれません」
小さく呟くような声に長官は黙って聞いていてくれた。
「だけど、それは善くない事で。……長官もそうですよね? 私達はこの関係に甘えてたんです」
「……名前」
言い終えた後パッと目の前を見た。そして私の名前を呼ぶ長官にこれで最後でも言うように今まで何度も繰り返したキスをした。
そのキスは一瞬で、唇が触れる程度のものだった。
「私達の関係は一体なんだったんですか?」
唇が離れた時、今まで思っていた事をやっと音に出した。
だが、答えを聞かず質問を投げたまま、膝の上から飛び降り扉の方へ向かった。
「なっ! オイ! 待て、名前っ!」
後ろからそんな声がしたと思った瞬間に、ぐんっと腕を痛いくらいに引かれる感覚がし、グルリと身体が回転しそれに驚いて息を飲みぎゅっと目を閉じた。
「言い逃げか? 名前」
「え?」と思い目を開け声がした方を見るとそこに長官がいて。私は今長官に抱きしめられている事に気がついた。
「……な、にしてる」
「黙ってろ」
また元の状態に戻ってしまった私。
「……はぁ。おれたちは順番を間違え過ぎたんだな」
「い、今更です」
くぐもった声でそう言えば、私の頭の上でふっと笑う長官の声が聞こえた。
「あー。……す、好きだ」
「何でちょっと間があったんですか」
「……うるせェな。名前はどうなんだよ」
未だ抱きしめられたまま会話を続ける私達は互いに顔は見えなくても大体予想はつく。
「す、好きですよ? 当たり前じゃないですか」
「そ、そうか……」
それからまた無言になった私達。
少し遠慮がちに顔を上げれば、視界を奪われ唇に今まで何度も体験した感触を感じた。
「……ん……ふ」
つい先程まで繰り返し行っていたこのキスという行為が、これ程幸せに感じたのは初めてだった。
-END-