何故だ。ムカツク。腹立たしい。
私の頭の中ではこの3つの言葉がずっと巡っていた。
コツコツと普段よりヒールの音をでかく響かせて廊下を歩く私の表情は本当の無表情だ。だけど頭の中にはぐるぐると言葉が回り、そんな表情なんて気にもとめられないほどだった。
カンッとヒールの音を止めると、目当ての場所に着いた私は目の前の扉を開き、頭の中を占領していた怒りの対象でもある人物に歩み寄った。
「スパンダム!! 生きてるでしょうね!」
「ダァァア! びっくりしたァ! ノックぐらいせんか! って名前?!」
「お久しぶりですね! スパンダム“長官”!」
「お、お、お、お前! 何しに来たんだァ!」
わざと役職を強調して言うと、そう返ってきた。
目の前には包帯でぐるぐる巻きにされて、顔は腫れていて本人かどうか認識出来ないくらいだ。唯一多分本人だろうと認識できるのは声のみだ。
話しには聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
「何しに? ご自分でよく考えてみては?」
普段この人に使わない言葉で言ってみれば、ぐっと言葉を詰まらせ黙った。
そんな目の前の人物に呆れそうになりながらベッドに縛られる状態になっている彼に近づき、そこにある椅子に腰をおろした。
「やっぱり……お、怒ってるよなァ」
「別に……面倒な任務のことなら居残り組にしてもらって結構だけど! だけど、なんで私だけ今回のニコ・ロビンやカティ・フラム、麦わらの一味の件……ルッチ達が帰ってくる1日前にあんな任務に就かせたの!」
「……そ、それは。ってやっぱり怒ってるじゃねェか!」
「煩いわね! 当たり前でしょ!」
私だって幼い頃から政府に人生を捧げ、六式を習得し道力だってカクやルッチには劣るが、それなりにはある。だから私だけ除け者みたいに扱われたのが腹立たしくて仕方ない。
そして何より腹立たしいのは、この人のことを守れなかったことだ。
「……私だって。……私だって、CP9よ! 長官であるあなたを守らせてよ! なんであんた簡単な任務に3日滞在なのよ!!」
「! ……わ、わりィ」
涙声になりそうなのを堪えながら、顔を伏せてそう言えば小さくそう返ってきた。そんな謝罪の言葉に、耐えてきた目に何故か涙が溜まり視界を歪ませた。
別に謝罪を聞きたかった訳ではないのに。
「……だけどよ、おれ不安なんだよ」
「…………何が?」
いつもの彼からは想像もつかないような弱くて、そして少し優しい声が聞こえて、歪んだ視界をそのままに視線を上げれば、当然涙は頬をつたった。
それを見た彼は、一瞬驚いたような表情を見せたがそのまま言葉を続けた。
「……相手は海賊だぞ? そりゃいつももっと危ねェこともしてるだろうけどよ。今回はニコ・ロビンの護送やあの狂暴な
カティ・フラムだっていたんだ。あいつらも相当ひでェことになったと聞いた」
あいつらとはルッチ達のことだろう。それは私もここに着く前に聞かされた。
「だからよ、名前にそんな危ねェことさせたくねェんだよ。唯でさえいっつも危なっかしい任務してるっつうのに」
「……に、任務に関してはあんたがやらせてんだからね!」
「分かってるよ! んなこと!」
一瞬彼の言葉で、所謂トキメキを感じたが、それを顔に出さずについ可愛くない言葉を出した。それには予想した通りの返答が返ってきた。
何故自分はこんなに素直になれないのだろうか。
先ほどまで怒りの対象が彼だったのに、さらりと自分に代わった。
「名前……」
「な、なに……?」
どこか気まづいような空気の中、彼がこちらの様子を伺うような表情を見せながら私を呼んだ。
それに首を傾げ問うと、ばつが悪そうに「わ、悪かったよ」と一言そう言って、視線を外した。
「う、うん。……でもそれもう聞いた」
「ダァァア! うるせェなァ! おれが謝ったんだ! それでいいんだよ!」
「……ぎ、逆ギレ」
初めて見たよ。包帯まみれで逆ギレしてる人。
「分かったから。スパンダム、あなた大人しくしとかなくていいの?」
「あ? ああ、そうだった」
まだ大声で騒ごうとした彼を落ち着かせると、さっきより空気が軽くなった気がした。
「あ、忘れてた。名前」
「え? なに、忘れ物?」
「違うわ」
何か忘れ物があったのかと腰を上げかけたが、否定をされまた腰を元に戻した。
「? じゃあなに?」
「……おれ今動けねェんだよ」
「知ってるわよ」
何を言ってるんだと首を傾けようとした時、彼の固定されている腕の指先が、器用にクイクイと曲げ伸ばしされ、それは恐らくこちらへ呼んでいるジェスチャーだろう。
「また骨折れてもしらないわよ」
「それは勘弁してくれ」
意味を理解し、ゆっくりと腰を上げベッドに乗ると、また可愛いげのない言葉を投げ掛けながら、彼が寝ているふかふかの枕へ頭を乗っけた。
「名前、お帰り」
「うん。……ただいま」
いつも任務から帰ってくると、抱きしめ言ってくれる言葉を聞けて、引っ込んでいた涙がまたじわじわと溢れてきた。
やっぱりこの場所は落ち着く。
耳元で微かに聞こえる彼の息づかいに、安心と愛しさのようなものが込み上げてきた。
「名前、もうそろそろ……」
「まだこのままだよ。バカスパンダム!」
「……はい」
だからギュッと握りしめた彼のパジャマに水滴を落とさないように気をつけてながら、彼がここにいる事を噛み締めた。
-END-
瑠璃様お題