「ダァァァア! コーヒー溢したァ!!」
「テメェまたかァ! スパンダム!」
ガシャンという音と共に二人の男の怒鳴り声が部屋に響いた。
「うるせェ! だいたい名前、お前がこんな熱いのを持って来たのが悪いんだろうが!」
「ああ?! おれのせいか! このパンダ野郎!」
名前と呼ばれた一人の男が、割れたカップを怒鳴り散らしながら片付けていると、スパンダムと呼ばれたもう一人の男が無茶苦茶な屁理屈のようなものを言ってきた。
「ったりめェだろ! というより名前! お前は敬語というのが使えねェのか? 一応おれはお前の上司だぞ!」
「何が上司だよ……。おれは同期に敬語なんて使ったことはねェ。それにこの長官っていう役職も親父さんのコネじゃねェかよ」
「っるせェよ! ……それよりさっさと新しいコーヒー持ってこいよ!」
「本当にムカツク奴だな、お前」
「ワーハッハッ! そう思うならお前のさっさと出世しろよ! 秘書なんざつまんねェことしてねェでよ」
大方片付いたのか、名前は割れてもう使い物にならくなったそれを片手に、新しいコーヒーを入れに足を動かしかけた。
だが、スパンダムのその一言にハタリと足を止め、今日1日何回したか分からない溜め息をついた。
「あ? 名前、どうした?」
自分が溜め息の元凶と知らない目の前の男に心の中で「おめでたい奴」と呟いて言った。
「おれが秘書辞めたらテメェの秘書なんて誰がなんだよ」
「あ? 誰って……。誰だ?」
そう言い、真剣に悩みだした目の前の人物にプッと一瞬吹き出して「知るかよ」と言い今度こそ、足を扉に動かした。
扉を開け体を半身出した所で振り返り、まだ考え込んでいるスパンダムに少し大きめに言った。
「おれ、スパンダムが死ぬまでテメェの秘書辞めねェからな!」
そう言うとやや恥ずかしかったのか、素早く残った半身を飛び出させ、扉をバタリと閉めた。
閉めた扉の向こうで「いいからさっさとコーヒー持ってこい!」と怒鳴られたので、苦笑いをしながら歩き出した。
「本当にムカツク奴」
言葉とは裏腹にその表情は愉快そのもので、この友人との掛け合いがとても楽しく心地よいのだ。
割れたカップを持つ手に一瞬視線を移し、後何回ここを往復すればいいのだろうとそんな事を考えながら、自分の同期でもある上司の彼を思った。
「……もうそろそろ落ち着けよ」
これは恐らく彼の心からの願いだろう。それが叶うかは別として。
-END-