Is this the right place to draw blood?

 遮光カーテンで閉められた窓は、夜中の2時を回っているにも関わらず、そこから少し漏れるのは細長い光だ。このエニエスロビーでは、夜という当たり前のものが存在しない。
 そんなやや光が零れる部屋に、一人の人物が忍び込んできた。

 ここは、CP9指令長官であるスパンダムの自室だ。だが、そのスパンダムはベッドの中で熟睡中だ。

 ギシリーー。
 薄暗い部屋で、それより黒く覆い尽くされた人物はフラフラとそのスパンダムのベッドへと乗り上げた。そしてベッドのスプリングの音がすると、ピタリと一瞬動きを停止させたが、真下にいる男が起きてないのを確認し動きを再生させた。
 
 その人物は男を覆い被さるように両腕を跨がせると、男の寝間着から覗く首筋目掛けてゆっくり自分の鋭く尖った牙を近づけた。

 ピクリーー。と男の瞼が動き、眉をキュッと寄せるとそれを開けた。

「……。何してんだ?」

 掠れた声で自分の上に乗っている人物に声をかけると、ナイトテーブルにある時計を見た。だがそれも外が明るいので、朝か夜か寝起きの頭では判断するのに時間がかかる。

「おはようございます、長官。今私は長官の血を吸おうとしてます」
「……はぁ? 名前、お前なに言ってんだ?」

 名前と呼ばれた女は、スパンダムの上に跨がったまま真面目に答えた。その返答に困惑の表情を見せ、スパンダムはそう聞いた。

「言葉そのままの意味です。長官、今まで黙っていてすみません、私実は吸血鬼だったんです」
「は、はぁ?」

 またもや真面目に答えた名前に困惑と驚きの表情を見せたスパンダムは「とりあえずおれの上から退け」と名前を退かせた。

「長官、血を吸わせてください。……じゃないと私死んじゃいます」
「さっきからなに意味わかんねェこと言ってんだよ。それになんでおれなんだ! そしてその歯はどうした? 変な冗談はやめろ!」
「冗談ではないですよ。この歯は血を吸う時にこうなるんです。それに何故って。…………長官だから言ってるんですよ」
「あ?」

 尖った牙をチラリと覗かせながら小さく長官だからと口にする名前は、赤く光る瞳を伏せベッドカバーを握った。

「だからッ、長官がす、好きだからお願いしてるんです!」
「な! おまッ、なに言い出すんだよ!」

 唐突な名前からの愛の告白に、自分は吸血鬼だと告げられた時以上に驚いたスパンダムは目を見開いた。

「だから……。長官、あなたの血を私にください」
「な、ちょっ! 名前?!」

 ゆっくりとスパンダムに近づき首筋に自分の口を寄せた名前に、さすがに焦ったスパンダムは身を引こうと後退りするも、そっと添えられた名前の手にビクリと肩を震わせ固まった。

「や、ちょっと待てって!」
「……長官」
「っ!!」

 吐息がかかる程近くなった時、制止の声をかけるも名前のとても切なく赤く光る瞳と目が合い、息が詰まるような感覚になったスパンダムは、もう何も言えなくなってしまっていた。

「……スパンダム長官」
「っ名前」

 ゆっくりと互いを見つめあっていた視線が外れ名前の唇がスパンダムの首筋にすっと触れた。

「っ! ん……」
「……」

 ツー。と首筋を滑るようにして這う名前の唇は、なかなかスパンダムに噛みつこうとはしない。

「……。? 名前?」
「はい?」
「い、いや……なんと言うか……」
「長官、申し訳ありません。……全部嘘です」
「……ハァ?!」

 焦らすように這っていたものにどう言っていいのか躊躇っていると、名前は信じられない事を口にした。

「てめッ! おれを騙しやがったナ!」

 当然の如く怒りの表情で怒鳴ったスパンダムに、冷や汗をかいた名前がまた驚きの言葉を口にする。

「ご、ごめんなさい!! で、ですがスパンダム長官が好きだと言ったことは事実で本当に好きなんです!!」
「ふざけッ……。え?」

 先ほどより距離をとった名前がまたベッドシーツを握りそう言った。
 二度目の告白に怒りが消え、羞恥と驚愕が襲ったスパンダムは「そ、そうか」と一言呟くと、視線をキョロキョロと動かしそのまま無言になった。

「…………」
「…………」

 時計の針の音しかしなくなった部屋に、奇妙な格好をした
女とパジャマ姿の男が、互いに無言でベッドに向かい合った形で動かないのはとても奇妙で、不思議な光景だった。

「……と、というかあれだ。名前はなにしにおれの所に来たんだ?」
「あ、そうだ! 長官、Trick or Treat!」
「はぁ?」

 名前は今思い出したようのにそれを口にした。その言葉に眉を寄せ「なんの事だ」というような顔をしたスパンダムに、名前は両手を差し出した。

「え、はぁ?って長官忘れてるんですか? 今日はハロウィーンですよ!」
「……じゃああれか? 名前はハロウィーンだからって深夜におれの部屋に忍び込んで、菓子を要求しに来たんだな?」
「まァ、そういうことになりますね」
「ふざけんな? 菓子はねェし、おれは眠いんだ! 寝させろ!」
「えええ! ってちょっと! 長官?!」

 名前の子供かという理由に呆れながらも布団に戻ったスパンダムは、ついでとばかりに名前を抱きしめ一緒に布団に入った。

「うるせェ。おれの安眠を妨害した罰だ」
「ば、罰って……」
「あ、あと……おれも名前が好きだ」
「え? ほんと……」
「ダァァア! だから寝ろって!」
「グエッ! ちょ、長官! 苦しい……」

 ギュッと抱き枕のように抱きしめられる名前は、満更でもなさそうに顔を綻ばせながら声をあげた。抱きしめるスパンダムもこちらもこちらで照れているのかやや顔を赤くさせ目を瞑っている。

「あ! コンタクトと牙取るの忘れてた!」

 いきなり大きな声を出した名前はいそいそと自分の目に張り付いたコンタクトと牙を取った。

「お前力入れすぎだろ……」
「結構テンション上がりますよ? 長官もしますか? ヴァンバイアコスプレ」
「するかアホ」
「絶対格好いいですよ」
「ハイハイ。ほら寝ろよもう」

 何処と無く嬉しそうに名前を布団に呼んだスパンダムは、名前の頭を撫で今度こそ目を瞑り寝る体勢へと入った。

「長官、起きたらお菓子くださいね?」
「お前はいったい幾つなんだよ。あと、名前で呼べ」
「……考えときます」
「なんで?!」
「ハイハイ。寝ましょうねェ」
「おい! おかしいだろ!」
「…………」
「寝んじゃねェよ!」

 この二人は何時になったら寝るのだろうか。

「起きろ!」
「さっき寝ろって言ったじゃないですか!」
「うるせェ、そん時はそん時だ!」
「うわ、自己中……」
「それは名前だろ!」

 多分暫くは寝ないだろう。



-END-
Happy Halloween!

list][top