That makes me envious,

 ふんわりとした甘い香りが空気を漂い、私はトロリとしてきたモノをかき混ぜていた。
 少し塊がまだ残っているそれを見つめながら、これを渡すであろう人を思い浮かべた。

「名前、顔がセクハラよ」
「え、あ! ごめん。……って顔がセクハラってなに?!」

 隣から冷静にやや冷たく言われた一言に現実に戻れば、先ほどまであった塊は無くなっていた。そしてよく分からないがとても失礼な事を言われた。

「そのままよ。それを渡す相手と一緒ね、良かったわね」
「ち、ちょっと! 冷やかさないでよ!!」

 さらりと綺麗な笑顔で凄い事を言われ、顔の熱が上がった。それは今手元にあるものと温度が近かったように感じた。

 先ほど思い浮かべた人とはほんの数ヶ月前に、上司から恋人へと変わった。だけど私たちの職業上そんなに長い時間会えなくて、恋人らしい事なんてしていない。
 だからなのだろうか。バレンタインというただのイベント事なのに、何処か落ち着きなくそわそわとしている。

「あなた……子供みたいよ?」
「!! わ、分かってる! ……分かってるもん」

 小さくなった声を誤魔化そうとひとつ咳払いをし、手元のモノを持ち上げ容器に流し込む準備をした。

「ふふ、名前は見ていて飽きないわね」
「もうカリファ! からかわないで!」
「あら、ごめんなさい」

 隣でクスクスと上品に笑う友人に睨み付けても「そんな可愛い顔されても困るわ」とさらりと流されてしまった。
 冷めないうちに順序良く作業を進めながらも、隣の同僚でもある友人にからかわれつつやっぱり頭ではこれを渡す人を思い浮かべていた。











「で。名前はずっとそこで何をやってんだ?」
「い、いやー。……」

 私は先日の作った時の事を思い出しながら、後ろ手にソレを隠しながら今の状況をどうしたものかと言葉にならないものを出したがそのまま黙ってしまった。
 つい先程だ。報告書という紙を渡しにこの指令長官室に来たのは。
 だがその報告書を彼に渡したのはいいが。今日は何時もとは違い、後ろ手にあるモノを渡さなければならないのだが、彼の机を見ると高級そうな箱がご丁寧に並べられているのを見てしまった。
 そんな物を見せられては渡すものも渡せなくなり、ずっと突っ立ていた。

 私がこの部屋に着いた時はまだルッチやカクなどがいたが、私が突っ立ている間に皆いなくなってしまい、私と彼だけになってしまった。そして彼のあの一言で本題に入れるのだが、あの箱たちを見た私は怖じ気づいてしまい、なかなか言い出せなかった。


「なんかおれに用があってずっとそこにいたんだろ?」
「う、うん……」

 私が敬語で話すのを止めたからか、彼は今座っている石造りの椅子を立ち、そのままソファへと移動した。その時私の前を通り、腕を掴んで引っ張った。彼と私がソファで横に並んで座る形になった。

「……名前」
「ん?」
「それだろ? お前がここにずっといた理由」

 すっと彼が指差したそれは私が持っていたラッピングした箱だ。

「……うん」
「はぁ。……黙って突っ立てんなよ」
「ごめん。だってあ、あれ」

 目線だけで机にあるものを彼に訴えれば「ああ」と納得したような、でも何処と無く馬鹿にしたような顔をした。

「ンなのただ上司への義理チョコだろ? 毎年の事だろ」

 もう慣れたとでも言うような彼に私は自分の子供っぽさを痛感した。

「分かってるけど、なんかムカツク」
「ハァ?」
「だってあれスパンダム食べるんでしょ? それがやなの!!」
「食べねェともったいねェだろ!」
「なんでソコだけ庶民的なのよ!」
「うるせェ! いいだろ! 名前のが食えるんだったら何でもいいんだよ!」
「……な、な、なに言ってんの!」

 何故この人は恥ずかしげもなくこんな言葉を言えるのか。
 私は彼の言葉に嬉しさのような複雑な感情がこみ上げ、押し付けるようにして綺麗にラッピングした箱を渡した。

「イッテ!! なんで怒るんだよ!」
「なんでもない!」

 この複雑な感情をどうしたものかと思った時、ふっと彼の顔が近づいた。

「!! ……なんで今なの?」
「名前が欲しそうな顔したから」
「してない」

 顔がチョコレートを溶かしている時以上に熱くなっているのを彼がニヤニヤと見ていたので、腕を一発殴ってやった。

 因みに机に乗っていたあの箱は、その後私がほとんど食べてしまい。すぐにダイエット計画を実施した。



-END-


Happy Varentain!!

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