「長官、失礼します」
硬く厚い扉をノックし、断りの言葉を入れると返事を聞かず中へ入った。
「まだ返事をしてねェだろ!!」
いつもの如くその言葉が返ってきたけど関係はない。本当にいつものことだ。
「そして好きだ」
「意味が分からん! 用がねェなら帰れ!」
「用はあります。はい、クッキー」
長官の机の前に行きながらいつもの掛け合いをして、今日来た本当の目的をその机に置いた。
「……またか」
「はい。またです」
「2日前も貰った」
「あれはカリファに手伝ってもらったんです! これは一人で作りました」
長官はややげんなりした様子で頬杖をつき、それを眺めていた。
「……お前も変わってんな」
「ほっといてください」
机に頬杖をついたまんま私を見る長官は、呆れているようだった。その視線に耐えられない私は逃げるように頭をさげ、ぼそりと呟いた。
「十近くも離れてるオッサンに……毎日毎日」
「と、歳は関係ないじゃないですか!」
つい大きな声を出してしまい、さげていた頭を上げた。
私はルッチと同い年で、彼には十近くも離れてる長官に想いを寄せている事でよくからかわれている。
だがら、長官自身にその事を言われるのがとても嫌だった。
「な! な、泣くなよ……」
「! ……すいません」
勢いよく顔を上げたせいか、ずっと我慢していた涙が頬を伝った。それに驚いたような長官に言われ、恥ずかしさやぐるぐるといくつもの感情が頭を支配し、訳が分からなくなりながらも、それを指で拭った。
「……。はぁ」
涙を拭い多分十数秒程だが互いに無言で、見えもしない空気に悩まされていると、椅子に座っていた長官がひとつため息を溢し、席を立った。
「あ、あの! ちょ、うか……!」
席を立った長官はそのまま私の目の前に来て、とても複雑そうな顔をしていてずっと私から目を反らさなかった。
どうしていいのか分からずとりあえず声をかけたら、いきなり頭に重みがかかった。それは長官の手で、ただただ本当に複雑そうな顔で私の頭を不器用に二三度撫でた。
「……おれと付き合ったっていいことねェだろ?」
「え……? !!」
それは一瞬。ほんの一瞬、触れるだけのものだった。
すっと触れたそれを離した長官は、私の頭にあった手をそのまま頬へ滑らし、手の甲で器用に撫でた。
ビクリと肩を浮かした私に長官は、鼻でクスリと笑い、また顔を近付けた。
「!! ……」
身構えてしまった私はぎゅっと目を瞑ってしまい、多分綺麗な顔は出来ていなかったと思う。
「……ふ。今日はもう帰れ」
また一瞬触れたのか分からないそれをされると、そう言われた。
「へ? な、ん。え?」
「このクッキーは食っといてやるから」
コツコツと上品な靴を響かせ石造りの硬い机に戻っていくと、こちらに振り返りながらそうニヤリと言った。
「か、からかったんですか?」
本当に泣きそうな声でそう聞いた。
心臓が凄く痛いし、もう感情もどれが正解なのか分からないくらいぐちゃぐちゃだし、どうしたら良いのか判らなかった。
「ンなガキくせェことするかよ」
「え? じ、じゃあ……」
鼻をグズリと啜り、長官を見つめると。
「二人でいる時だけでもおれを名前で呼べたら名前の期待しているような関係になれるかもな」
「!! あ! わ、わたし頑張ります!!」
これは遠回しだけでもそういうことだと受け取ってもいいのだろうか。私は自惚れても構わないのだろうか。
「はいはい。だからもう帰れ。おれは仕事があるんだ」
「はい! ス、ス、スパ」
「さっそくかよ!」
「え? ダメなんですか?」
「……もういいよ」
「はい! スパンダム!!」
「!! ……お前は」
「言えました!」
まだ少し目尻に涙が残っていて、感情もいっぱいまだぐるぐる回っているけど、長官の、彼の名前を呼んだ瞬間今までとは違う別の痛みがした。
-END-