ペラペラと読む気もない本を捲り、入ってこない字たちを目で追いながら、本当にただボーッとしていた。指令長官室で。
「……本読まねェなら帰れよ」
「……」
「名前?」
「……」
「オイッ! ーーッ!」
なにかさっきより騒がしいと思ってハッとすると、私の目の前にスパンダムが眉間に皺を寄せ腕組みをしながら仁王立ちしていた。
「! どうしたの?」
「……どうしたのじゃねェよ。何回呼んだと思ってんだ!」
彼にそう怒鳴られた私は膝に置いたままになっていた本をパタリと閉じ「ごめんね」と曖昧に笑いながら謝った。
そんな私に彼は表情はそのままで、私の座っているソファーの隣へ腰掛けた。
「おれが仕事してんのに名前は本なんて読みやがって!」
「……ふふ、ごめんね」
本当は読んではいなかったが、彼がソファーのひじ掛けに頬杖をついてこちらを恨めしそうに睨んでいるその表情が可愛らしかったので、そうまた謝りながら胸がキュッとなるものを感じた。
「でも今日は私お休みですよ? スパンダム長官。ですので秘書としての業務は明日からでお願い致します」
「……。そうかよ」
口元が綻ぶのを隠すのが難しくなってきた。私がいつもの調子で彼を役職で呼び、そして丁寧な話し方で話すと彼は何も言えなくなる。それがとても可愛らしい。
「さ! コーヒーでも淹れようかな」
「……」
膝の上に乗っかったままの本をテーブルの上に置き、何もなくなった膝をパンッと軽く叩くとそのまま立ち上がった。が、私の腕をまだ座ったままの彼が無言のままパシリと掴んだ。
「? スパンダム? どうしたの。あなたの分ならちゃんと淹れるわよ?」
「……」
「……? どうし、! わっ!」
首を傾げ中腰になり彼に近付こうとしかけた瞬間、グイと彼のほうへ身体を引かれ、気が付けばそのまま彼の胸へダイブしていた。
「……今はいい」
「へ? なんて? ごめん、聞こえなかった」
「今はコーヒーはいいっつったんだ!」
「あ、ああ。そう……。で、何でこの体勢」
近距離で見つめあうのはなかなか恥ずかしい。しかもとても密着している。
付き合いたてなどそういう関係ではないし、これ以上も密着する事もしばしば。なので今更なのだが、本来仕事をしている時間なので何故か恥ずかしくなる。
「なに恥ずかしがってンだよ」
「べ、別に……。というより何がしたいのよあんた」
「特には」
「なら離してよ」
「誰に命令してんだよ、ヴァァカ」
「バカはあんたッ! んっ!」
この時私の貴重な休日が無くなった気がした。そもそも私がこの人の部屋に訪れていなければ。と考えたが、それではせっかくの休日が勿体ない気がした。
「ふっ……。名前はおれだけを見ていればいいンだよ。そして、おれだけを感じてろ」
「ん、! ……私には休みはないのですか? スパンダムちょう、!」
最後まで言い終わらないうちに塞がれた。
「もう喋るな」
たった一言で私は何も考えられなくなった。真っ白な頭の中で、綺麗な紫が波打つのが分かる。そしてそれが彼なのも。私は本当に彼しか考えられなくなった。
-END-