Correct name

「ジュリオル」
「はい、何でしょう長官」

 そうこいつの名前はジュリオル。だがそれは偽のナマエであって本名は名前だ。
 何故こいつが偽名なのかはおれも知らねェ。だが、こいつの本名を知っているのはおれだけだ。海軍本部の誰もこいつの本当の名前を知ってるヤツはいねェと聞く。ああ、そうさ。おれだけが知ってる。
 こいつはこのCP9に2年前に配属した新人のメンバーだ。だが、こいつの殺しの腕は新人とは思えないほどだ。元は、海軍本部で一等海兵から少将まで上り詰めた実力者だ。そんな少将にまでなったようなヤツが何故こんな闇の暗躍機関へ来たのかは理解不能だ。本人によると「退屈だったから来た」そうだ。つくづく理解出来ねェ。

「コーヒー淹れてくれねェか?」
「は?」
「いや、お前の報告書見易いんだが、長いから」
「……分かりました」

 自室のモノより硬い机と椅子の上で背凭れに凭れながら、几帳面な少し尖った字でまとめられている報告書を読んでいると、コトリと小さな音をたてコーヒーセットか机の上に置かれた。

「長官、コーヒーです」
「おう」

 すらりと細い名前の指がソーサーに添われているのを眺めながら、手に取ったカップを口に近付け溢さぬよう気を付けてて飲んだ。

「名前。今は二人なんだ、いつもみたいに呼べ」
「……スパンダムさん」

 おれが名前の名前を呼びそう言うと、こいつは視線をわざとおれと合わさぬようにしてモゴモゴと口を動かし小さな声で言った。
 そんな彼女にふっと笑いが溢れてしまったが、いつもは冷静で表情を崩さない彼女の少しの仕草で満更でもない自分がいる。
 視線を下にしてしまった彼女の腕を掴んでそのまま自分の方へぐっとやや強く引っ張った。今日の彼女はいつもより高いヒールを履いているおかげですんなりとおれの膝へとよろけながらも来た。

「痛い……道力9のくせに強く引っ張らないで」
「うるせェ。って道力は関係ねェだろ!」

 大人しく膝に乗ったと思ったら。
 そのままの体勢で、名前の顎を持ち上げ顔を近付け、もう少しで触れるところでふとずっと気になっていた事が頭に過り、そういえばと聞いてみた。

「……お前なんで偽名なんて使ってンだ?」
「……? は? 今聞くこと?」

 寸前で止められた名前は綺麗な眉を歪め、声だけでも機嫌が悪いのが分かるように言った。

「や、そうなンだけどよ……。気になるじゃねェか」
「……。はぁ……」

 一度おれの目を見つめ、深く溜め息をついた名前は少し距離を取るように密着していた身体を離した。

「別に大した理由じゃないわよ?」
「ああ。ただ気になっただけだから……」
「あ、そう。……まぁいいか、じゃあ言うけど」

 先ほどまで機嫌が悪そうな表情だった名前が、今度はあっけらかんとしたおれの反応を楽しむような表情を見せた。こんなにコロコロと表情を変える名前を見ることが出来るのは自分だけだと思うと気分がいい。

「簡単に言うと名前を覚えられないようにね」
「名前を覚えられないように?」
「そうよ。あなたも分かってるでしょ? CP9は政府の暗躍機関よ。……ターゲットに恋人や家族がいるのなら」
「仇討ちか……」
「ええ」

 話している内容はとても恋人という二人がするモノではない。だが、名前の口角は何が楽しいのか上がっている。

「だが、名前が偽名を使い始めたのは最近じゃねェだろ?」
「ええ、そうよ。少将の頃は相手が海賊だから尚更よ」
「成る程なァ」
「これで満足?」
「ああ、やっと気になっ!! っん!」

 ずっと頭の端で疑問符がついたままだったモノに回答出来ると思い油断していたら、不敵に微笑んだ名前にぐいっと引っ張られ、先ほどしそびれたそれをされた。

「先ほどの続きをしませんか? 長官」
「……名前で呼べ、バカ名前!」


-END-
 

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