conceited

 「やっぱりお前の趣味はおかしい」この言葉は何回聞いたか分からない。多分全部の指を使っても足りないと思う。今はそんな事を考える時間ではないけど。
 
 溜め息でもつきそうな気持ちで、ペラリと紙を捲った。今は私達CP9のミーティングの時間だ。これは各々の任務の定期報告や次回の任務に必要なデータや打ち合わせ等を行うようなもので、結構長い間椅子に座りながら話を聞いたり話したりしなければならない。
 なのでつい数時間前にこのエニエスロビーにそれこそ任務から帰って来た私からすれば、眠いことこの上ない。

 行儀が悪いが背もたれにだらしなく凭れながら、今話している上司でもあるスパンダム長官の話を聞いているフリをした。本当は長官の話し声がただの音に聞こえ、その長官の顔をじっと眺めていた。

「……オイ! 名前、おれになんか言いたいことでもあんのか?」
「……。……」
「ッ名前!」

 ボーと目を宙に飛ばせていたら、いきなり机が揺れ大きな音が響いた。
 それで気が付いた私はハッとなり目を元に戻すようにしばたたき、先程から視線の先にいた長官が何やら怒っている様子からさっきの音は長官が机を叩いた音らしい。

「へ? あ、はい! 何ですか、長官」
「なんですか、じゃねェよ! さっきからおれの顔ばっか見やがって! 言いたいことがあるんなら言え」
「い、いいえ! ただボーとしてただけです!」
「アホかお前は! 今仕事中だろ!! シャキっとしやがれ!」

 正直に言うとやはり怒られた。
 先程のように目を宙に飛ばさぬよう目元を指先で軽く揉んでいると隣から「ふっ」と馬鹿にしたような笑いが聞こえた。眠くそして長官に怒られた私は少々気が立っており、ちょっとした事でもイラっとしてしまい「なに?」と怒ってますオーラ全開でそいつに食って掛かった。

「いや、……ただ名前は分かりやすいなと思っただけだ」
「はぁ? 今までのを見てどうしてそうなる訳?」

 本当にこの猫さんは。と挑発気味に言ってみたら、それはものの見事に睨まれましたよ、ええ。別にいいじゃん、豹も猫科だろ。という理屈は彼に通る訳もなく、その睨みに怖じ気づいた私は視線をそっと反らせた。

「ったくおまえらは……痴話喧嘩なら他でやれ」
「ち、痴話喧嘩な訳ないでしょ! 止めてくださいよ!!」

 長官の口から聞き捨てならない言葉が聞こえ、先ほどまで眠気と戦っていた目が一気に開き、頭もシャキッとした。

「はっ! 痴話は痴話だろ。もうミーティング終わったんだ。おれは先に戻るぞ」
「え、ちょ!」
 
 ガサリと乱暴に書類を持って部屋を出た長官に呆気に取られた私だったが、急いでほとんど読んでいなかった書類をぐしゃりとまとめると長官の後を追った。



「ちよ、長官! 待ってください!」

 長く続く廊下を全力疾走した(剃も使ったかもしれない)私は息を弾ませて先を行く長官に向かって大声で制止の声をかけた。それに一瞬びくりと肩を飛び上がらせた長官はこちらを向くと、面倒くさそうに眉を歪ませその場に立ち止まってくれた。

「なんだ? 言いたい事があるンならハッキリ言いやがれ!」
「や、やっぱり。……取り消してください! 痴話じゃありません!!」
「……はァ?」

 その気の抜けた呆れたような声に上がった息や心拍数もスッと冷めた気がした。だけど今言いたかった。多分それは眠気のせいだと睡眠不足のせいだと思いたい。

「お前まだンなこと言ってるのか?」
「当たり前じゃないですか?!」
「別に大したことねェだろ? 言葉の綾だ、言葉の綾!」

 長官にとってはあれは言葉の綾というジョークでどうって事ないかもしれないけど、私にとってはどうって事あるんだ。

「長官だから、……長官だから嫌だったんですよ!」
「は? どういう意味だそれ?」
「ッ! 例え言葉の綾でも……長官に他の男と‘痴話’なんて嫌なんですよ。凄いちっちゃなくだらない事なんですけど」
「……え、……そ、れは」

 半分睨むような視線で話してしまった閉まっておかなけらばならなかったモノ。
 私の言葉に長官は一瞬目を見開いたかと思ったが、すぐに考えるような表情をした。そして二三度私の方を見ると、小さく息を吐いた。

「名前……お前の言いたい事は分かった。それとおれへのき、気持ちも……自惚れじゃねェのなら伝わった。……だが……」
「ッ!」

 一旦そこで言葉を切った長官に私は、ああフラレる。と覚悟をした。そんな覚悟を小さくすると目頭が熱くなった。

「おれは名前の事をまだよく知らねェんだよ……」
「そ、……う、ですよね……」
「だから、名前の事をもっと教えてくれるか? そしてそれからちゃんとした返事するよ」
「っ! ……ッふ……ぅ……っは、はい」

 ギュッと今まで感じた事のない痛みを胸に感じながら、涙声になるのを抑えてかぶりを振った。
 つい先ほどまで睡眠を求めてた頭が、目の前の人でいっぱいになっていた。少しだが照らされた希望に自惚れてもいいのではないだろうか。と考えてしまう私はなんとも現金だなと頭の中の傍観者は呟いた。
 そんな現実と非現実が入り雑じった私の頭をふわりとした温かいモノが置かれた。視線をソレにやれば長官の手で、ぎこちない手つきで私の頭を撫でていた。

 ぎこちないながらにも優しい手つきにまた目の前の彼に落ちそうになったのは言うまでもない。



-END-

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