「ぶあっちぃぃ! コーヒー溢したァ!」
チッ。また溢しやがったな、コイツ。
「大丈夫ですか? 長官」
コツコツとヒールを響かせて、長官に近寄ると、本日数回目になる拭き掃除をした。
「大丈夫な訳あるかァ! ちょっと火傷したじゃねェかァ。ンだぁ、こんなコーヒー!」
そう言うと長官は、珍しく割れていなかったコーヒーカップを床に投げつけ、パリンと顔を歪ませるような音をたてそれを割った。
「はぁ……長官」
「あぁ? 何だよ。名前お前、さっさとこれ片付けろ」
長官は鬱陶しそうに割れたそれを指差し、そう言うと席に座り直し途中だった報告書へと目をやった。
「……分かりました」
そんな長官の態度にイラッとした私だったが、それを表に出さず、……出せばいちいち面倒だから。割れたカップだったモノを片付けた。
「チッ。またフクロウ間違えてやがる……修正するこっちの身にもなれってんだ」
っ!!……この男は今何て言った?
私は長官の信じられない一言でもう我慢の限界を越えてしまったらしい。
「長官……」
「!! 何だよ、お前か。い、いきなり話しかけんな! ちょっとびっくりしたじゃねェか」
「そんなの知りませんよ。どうぞ勝手にびっくりなさってください」
長官は報告書の修正で集中していたらしく、呼んだだけで見て分かるくらい肩をびくつかせた。しかし今の私にはそんなの関係ないわ馬鹿。
「し、知らねぇって……。さっきから何なんだよ、お前今日変だぞ?」
「変とは長官にだけは言われたくありません」
「お、おれは変じゃねェよ!」
「変ですよ、十分」
片付けた割れ物をカタリと長官の机の上に置き、さらりとそう言った。
「十分って……。ってなに置いてんだよ、早くほかせよ!」
「……長官」
「ああ?」
ほかせと言われた割れ物を見つめながらゆっくり喋りだした。
「……これ、幾らだったか知ってますか?」
「はぁ? 何だよ急に……。2000ベリーぐらいだろ?」
長官から聞こえた額に溜め息をつきたくなった。
「ふざけないでくださいよ」
「え、名前?」
私のその言葉は少し呆れを含んでいて、それに気づいた長官の顔は戸惑っていた。
「……に、2000ベリーって。はぁ。あのですねぇ……こちらのカップは1セット30000ベリーするんですよ?」
「わ、1セットでか?!」
椅子に座っていた長官がガタンと勢いよく立ちそう聞かれ「はい。0の数が違います」と言った。
「さ、30000ベリー……」
「を長官は毎日いくつ割られていますか?」
そうちょっと怒りぎみで聞くと、「ひっ」と何が怖かったのかびくついた。
「分かっていただけたのなら、これからは気を付けてください」
「あ、ああ。……わかった」
最後のほうはやや小さかったが、長官が何度も頷くのでこれ以上は何も言わないことにした。
「では、新しいコーヒーを淹れて来ますね」
「え? ……あ、ああ」
間抜けな顔してそう言った長官は力なく椅子に座り直すと、まだやりかけだった報告書に目を移動させ、つい数分前と変わらない長官に戻った。
「……」
それを見て私はカチャリと音をたて、割れた30000ベリーのモノを持ち給仕室へ足を運んだ。
-END-
JUKE BOX.様お題