「あー、やっと終わった!」
2週間ぶりの帰還に、大きな伸びをしてこの石造りの廊下をコツコツとヒールを響かせ歩いていた。
報告書も海列車の中で書いたし、そこで少し仮眠もとったし、すっきりとした頭で目的の場所へと10代の少女の如く鼻歌でも歌いながら、リズムよくその場所へと向かった。
と、そこに同僚である人物と出くわした。その人物は丁度私が向かおうとしていた場所からで帰ってきたのか、私の顔を見るとニヤリと楽しそうな笑いをこちらへ寄越した。
「おお、名前。今帰ったのか」
「カク! うん、ただいまー」
「名前がそれを言いたいのはわしではないじゃろ?」
「あはは、......よくご存知で」
「顔に出とる」
バサりとそう言われた私は自分に呆れや恥ずかしさが入り交じった声で「そらどーも」と返答にもなってないものを返して、そのまま彼の側を通り目的の場所へ向かおうとした時だった。
「あ、そういえば今長官おらんかったなァ」
「え? なんで?」
「ん? 何でも急な用で、マリンフォードへ行ってしもたわい」
「そ、っかー。……」
それを聞いた私の風船のように大きくなっていた気持ちはしゅるしゅると萎んでいった。
「そんな気を落すことも無かろう。どうじゃ? わしの部屋で久々に飲まんか?」
「え? んー、ありがとう。でも今日はやめとく。部屋に帰って報告書でも書くわ」
「そうか? 暇になったらわしの部屋にでも来てくれてもよいからのー!」
そんな彼の心遣いに感謝して、手をひょいと上げ早々とその場を立ち去った。そうでもしないと自分の先ほどまでの10代のような気持ちに恥ずかしさで得意な筈のポーカーフェイスが崩れてまた笑われてしまう気がした。(だがもうカクにそれを指摘されてしまっているので意味のないものだか)
「ハァ……恥ずかしッ!」
やや早歩きで先ほどまでよりコツコツとヒールの音を響かせ曲がり角を曲がった。そして一つ溜め息に大きすぎるそれをつき、口元を手で覆いながら一言そう言った。それも独り言には大きすぎる音量になっていた。
「……自分の部屋に帰ろ」
数秒ほど壁に背を預けていたが、目指していた部屋にはその主が居ないということが分かったので、行く意味がなくなり、そのまま自室に帰る事にした。
自分でも呆れるほどだが、まだ自室には帰っていない。だから荷物なんかは海列車内でまとめた報告書がそのまま鞄の中に収まっていて、それを持ち歩きながら目当ての人物に会おうとしていた。多分その人物に会っていたら笑われていたろう。
「フゥ……。やっぱりちゃんと寝ないと疲れるなぁ」
任務地から迎えの船と海列車を乗り継ぎここまで帰って来たが、船や海列車ではやはり仕事で見ていた赤い光景が興奮を呼び、なかなか寝付けず浅い眠りを繰り返していただけなのでやはり自分の本来いる場所へ帰って来たという安心感からかどっと疲れが溢れ出した。そして本来はここへ来る前はいつも寄る場所がありそこで先に『帰って来た』という実感や『死なずにまた会えた』という職業柄の独特な安心感を与えてくれるのだが、それは今回はオアズケということらしい。
「っと……報告書、どこい、った。……あった! ……ん?」
自室のシンプルなほとんど物が置いてない机の側により、海列車の中で書き終えていた報告書を出そうと鞄の中を探り、見つけたそれをいつもなら何も無い場所に置こうたしたら、そこには先客がいた。
「……こ、れ。……ふふ、似合わないよ、こんなキザなこと」
カサリと手に取ったメッセージカードに『I love U』なんて普段の彼からは想像出来ない1文が小さく綴られていた。裏を見てもそれ以外書いておらず、不思議なでも嬉しい気持ちになっていると。ふとペン建ての方への目がいった。
「ふふふ、今日の夜は遮光カーテンいらないんじゃない?」
と冗談を言いながらも、そこに1輪私の帰りを待っていたであろ彼の髪と同じ色をした花をふわりと取り、甘い香りを楽しみながら彼女と一緒にこちらへ顔を出した細長いメッセージカードには『Just for you... Happy White Day』とこれまたキザな言葉が。
それを読みながらギュッと甘い痛みが心臓に走り、花で隠せないと分かっていても顔を隠した。
「ありがとう、スパンダム」
-END-
Happy White Day!!