SleepVoice

「はぁぁぁっ……」
「……デケェ欠伸だなァおい」

 時刻は午前の11時になる頃、だだっ広い司令長官室にそこの所有者と部下2人だけという通常なら多少の緊張感がある室内。
 だがそこにはソレらしい空気は流れておらず、事もあろうに部下は上司がいる目の前で欠伸を平然としている。

「眠いんすよ……」
「お前なァ」

 カリカリと羽ペンを動かし追加資料に署名をしている上司を、生理現象か涙目を浮かべてふわふわと脱力した口調でそう告げたこの部下は、ここ2日きちんとした休みを貰え、今日とてこの2時間前に起床したらしい。
 なので欠伸してまで「眠い」などと訴えかけるほどではないはずだ。
 だが、彼女はこの職に――CP9に就いて初日からずっと「眠たい」というのが口癖かの如く朝夜関係なく発するのだ。

「こればっかりは仕方ないっす……あー眠い」
「……はァァ」

 追加資料と明日現場に行く任務先の資料を渡し少し口頭で伝える事があるため部下である名前を呼び出したが、欠伸を繰り返す彼女を見ているとこちらまで脱力してきて頭さえも痛くなってきたほどだ。

「……ほら、追加資料と明日のだ。あと……」
「はぁぁぁっ、い……」

 欠伸をかみ殺すなど社会人として当たり前のマナーを知らんふりで上司に向かってそれを繰り返す名前を、怒りを通して呆れてしまったスパンダムは「もういいよ」と匙を投げ、書類をだるそうに渡した。

「もういいっすかァ? ……眠いっす」
「……名前。そこのソファー貸してやるから寝てろ」
「え? いいんすか?」
「お前また廊下で寝るだろ?」
「あれは眠さの限界で」

 眠そうな顔から少しバツの悪そうな顔へ崩しそう言う彼女の脳には、一ヶ月前の事が蘇った。
 その時も朝は10時という健康的というかやや遅い時刻に起床し、今彼女がいるこの司令長官室に報告書を出しに行った。がその帰りに前日が(時刻は深夜2時を回っていたのでもう前日ではないが)任務で鉄臭い赤を身体に浴びてしまいそれに酔ってしまったのか、彼女にしては珍しく眠れずにいた。
 それが彼女の中にいる睡魔が襲い自室まで帰れずにそのまま司令長官室を出て10歩も歩かない内に倒れるようにして眠ってしまった。
 とそんな事がスパンダムの中にも名前の中にも記憶があるのか互いに表情を気まづいものへ変えながらも、名前は上司からそう言われてしまえば断る事が出来ないのか表情そのままにソファーに座った。

「次のミーティングまで2時間くらいだ。少しくらい寝れンだろ」
「……あ、ありがとう……ございます」
 
 ソファーの肘掛に頭を傾け、さっそく寝る体勢をとる名前は、そうスパンダムにお礼を言い終わると同時に睡眠の渦に飛び込んだ。

「はぁあ……」

 ため息をこぼしたスパンダムは、さっそく睡眠の世界にいった名前を見つめ、石造りの机に隠れるようにして置かれてる小さな箱を掴んだ。

「……今日ぐらい祝ってもいいだろ」

 パカリと箱を開けると、彼女の誕生石が上品なピアスに嵌め込まれていて、その箱の裏には【Happy Birthday】と銀色の刺繍が入っていた。

「……誕生日……お、おめでとう」

 相手は眠っているにも関わらず、恥ずかしいのか声が震え呟くような声で彼女の誕生日を祝った。

「……も、う……寝れま、せん」
「ッ……だと思うよ」

 ぽつりと呟いた自分の声にそう反応した名前にスパンダムはため息交じりにそう応えた。



-END-

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