静かな司令長官室で、硬い石造りの椅子に器用に足を組みながら羽ペンを動かしている長官・スパンダムは、頬杖を付いている左手を無視すると真面目に仕事をしている。
だが、その隣でなにかファイルのチェックをしているのか秘書・名前はキビキビと手を動かしインク付き羽根ペンをその中に書き足している。が、それらを見つめる視線は何かを考えているようで視点が定まっていなかった。
「長官、こんどの誕生日、プレゼントは何が宜しいですか?」
すると今まで視点をさ迷わせていた名前が思い出したかのように言葉を発した。
「ああ? 誕生日って……まだ先だろ?」
「明日プッチへ買い物があるものですから」
「あーそうだっけなァ。……まァなんでもいいよ」
大して興味無さげな声で言うスパンダムを横目で一瞥した名前は「言うと思った」とでも言葉になりそうなため息を彼にやった。
「ンだよ! この歳になってプレゼントなんざ興味ねェだろうが普通!」
「……なら肩たたき券ですね」
「なっ! かた、ッ……! お前は」
両者とも手を止め、前者は呆れるような後者は睨むようなどちらも視線だけを相手に寄越した。どちらがどちらかは、先程のやり取りで分かるだろう。
だが、何故彼女がそんな事を言い出したのか分からず、スパンダムは睨んでいた視線をスっと和らげ素直に疑問を投げかける。
「急にどうしたァ? 名前がンな事、珍しいじゃねェか」
「……だから、明日プッチに」
名前は不自然に口篭ると言い訳がましくそう言った。
「そもそも、毎年おめェらから貰ってんだ。別にいいよ」
その言葉の通り、毎年部下から名店の珈琲豆やお茶請けなどをプレゼントしてもらっていたので今回の彼女の申し出は不要なのだ。例えそれが部下一同名義で毎年同じメーカーからの配達で送られて来るものだとしても。
「……ですが、あれは」
「言うんじゃねェぞ。いいんだ! おれは偉いんだ!」
「そうですか」
偉いからなんだと言いたくなるがそれをサラッと受け流し「なら肩たたき券か肩もみ券ですね」と言った。
「……肩より別の場所がいいなァ」
「セクハラですよ」
「なんでだよ!! 腰だ! こし! 最近腰が痛くてたまんねェんだよ! お前の頭がセクハラだ!」
この二人はなんの話しをしているのか。
そう両者とも思ったのだろう。名前はファイルをバチリと閉じ、スパンダムはひとつ小さく息をはいた。
そして空気を変えようと違う話題を探し始めた頃、ポツリと名前から零れた。
「……私が、……あなたに渡したいのよ。きちんとしたものを」
「……なんだ、それ。ンな今更」
そう今更だ。
二人は三年ほど前に結婚していた。だが、それも一年と持たず、関係は破綻した。何が原因かは分からない、二人にしか分からない繊細なものなのかも知れない。
だが関係が破綻しようが、仕事での二人は今までどうり秘書と長官。プレゼントなんて特別なものを贈る間柄ではない。
「ごめんなさい。今更なのは分かってる。……でも」
「なら……。名前の時間をおれにくれよ。それ以外何もいらねェよ」
互いに小さな声で言うそれは、時間を、何かを戻そうとしているようで、二人の中で今更なものが動いたのかも知れない。
「……スパンダム、ありがとう」
「はっ! それも今更だろ」
照れ隠しか顔を背け、モゾっとそう言うスパンダムをふふっと笑い声を上げた名前、そんな彼女をわしゃわしゃと乱暴に頭を器用にも撫でた彼だが、首筋が赤く染まっているので本当に恥ずかしいのであろう。
それを見つめる彼女も少し恥ずかしそうだ。
この二人はいったい何時になったら仕事を再開するのであろうか。
-END-