海に惚れた君

 昼も夜も境がないこの不夜島で、今日海賊が誕生した。



「ねぇ、長官。海って広いかなぁ?」
「ああ?」

 名前は何の脈絡もなく聞いた。
 その日は珍しくCP9全員が揃っていた。そしてそれは各々が報告を上司であるスパンダムにしていた時だった。

「お前またそういうことを……」

 名前はCP9メンバーでも変わっていて、たまによく分からない事を口にする。CP9内メンバー全員が変わっているというツッコミは今は無視をしよう。

「いや、だってさ。私仕事で色んな所に行ったけど、すぐこの場所に戻って来てたりしてたから海の広さって分からないんだよね」
「だからってそれをおれに聞くなよ」

 報告をし終わった彼女は窓に頭を預けながら、腕を組み目線の先に広がる海を眺めていた。

「まァ、広いだろうなァ。……海だし」
「うん。……見てみたいなぁ」
「あ? 見てるだろ? ……今」

 スパンダムは名前の返答に眉をひそめ、こいつはまた何を言っているんだという顔をした。その表情はこの場所にいるメンバー全員が合わせたようにした。


「私はね、近くでみたいんだよ……例えば、船の上とか」

 そんな表情をされていることを知らない名前は、尚も目線を海へやり、何か頭で考えているだろう声で言った。

「はぁ? ……ふっ、お前海賊か何かにでもなるつもりか?」

 鼻で笑いながらそんな事はないだろうと思いつつ口にしてみた。

「んー、考え中」
「ああ?」

 だが名前が言った一言で、笑い話で済まそうとしたものが出来なくなった。

「ていうかほぼ決定だよね」

 あっけらかんと言う名前を他所に、部屋の温度は一度二度と下がった。

「海ってやっぱり広いよねぇ。……ねぇ、ルッチ?」

 決定だと名前が言った瞬間に、彼女がくるりと振り向き片足を上げ、ルッチと呼ばれた男からの攻撃を止めた。

「さぁな。だがお前が海賊というものに成り下がるのならおれは今ここで貴様を殺すぞ?」

 物騒な事を言っているが、目が本気だ。

「殺されるのだけは勘弁。だけどここを出る事は変わらないよ?」

 名前が言ったのと同時に、彼女が背もたれにしていた壁や窓が、斬られるようにして崩れた。

「……ッチ」

 耳を塞ぎたくなる程の爆音が静まり、沈黙が数秒流れるとルッチは小さく舌打ちをした。
 そして先程まで彼女がいた場所を忌々しく見つめた。

「長官、宜しいのですか?」
「ああ?」

 静まりかえった室内に、遠巻きから見ていたカリファが口にした。

「名前の事です……」
「ふっ、いいんだよ。あいつの好きにさせりゃあ」
「で、ですが」

 スパンダムの発言にそこにいる全員が「何を言っているんだ」と思った。

「あいつがンな簡単に捕まる訳ねェし。第一、名前はおれ以外に捕まえられねェんだよ」

 どこか嬉しそうに答えるスパンダムに、皆「何処にそんな証拠があるんだ」と困惑や色んな感情が混ざった表情をした。


「……名前はおれが捕まえる」

 それから数日後に、彼女が偉大なる航路で海賊になったとの報せが、7000万ベリーの賞金額と共に手配書でCP9に来た。


-END-

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