平和に行きましょう。

赤い鎖


 ‘鬼人’という恐ろしい異名を持つ彼に、私は何故彼が?と思ってしまう。だが、今の彼なら正に鬼人そのものだ。

「うあ゛ぁ! っや、やめてくれェ!」

 耳をつんざくような声と共に鈍い音が響き、辺り一面に赤黒い液体がビシャッと広がった。

「……」

 それを間近で見ていた私にピッと生暖かい液体がかった。
 頬に伝うモノを気にすることなく目の前の光景をボーッと見ていると、いきなり腕をぐんっと掴まれ、何処かへ連れていかれた。

「ちょっと! ……ギン、何?!」

 バタバタと船内へ向かう彼は、今さっき私の頭を占領していた人だ。
 私は腕を持たれ、無表情のままずんずん先を行く彼にもう何も言わなかった。
 行き先がだいたい分かってしまったからだ。



 多分ものの数十秒だっただろう、この彼の自室に着くまで。だが私には長く感じてしまった。


「ギン、あの……っ!」

 バタンと乱暴に扉を閉めると私をそこに押し付け、唇を塞いだ。

「っ……ん。ちょ、! ギンっ」

 部屋には私の鼻のぬける声と粘着質な音が響いた。そんな音達を耳にしながら、またかっと思ってしまった。
 彼は戦闘の後になると何故か私を求めてくる。はじめのうちは、恋人が自分の体を求めてくることに嬉しさを感じたが、最近はその嬉しさというものが無くなり、何故か切なさを感じている。

「っ……ん」
「ぅ……ふ……名前」
「っ!」

 たが彼が自分の名前を呼ぶと、途端に心臓がキュッと鳴り幸福感に満たされてしまう単純な私がいる。

「っ……は」
「……っふ」

 唇が離れ、鼻先をくっ付けながら呼吸を整えていると、彼がすっと唇を私の頬へもって行き、チロリと赤黒い液体を舐めた。

「鉄くせェな」
「ふ、当たり前でしょ? 血よ」

 そう言う私も、彼の顔中に着いた帰り血を先程の彼と同じように舐めた。
 本当に鉄くさい。
 口内に広がる誰の血か分からないそれを、消し去るようにまた彼の唇に自分のそれを押し付けた。

 互いを貪り食うようなそれは激しさを増し、ふっと力を抜いてしまえばガタンと二人共その場に崩れた。座り込んだあとも離れる事はなく、鉄の味もしないそれを続けた。


「名前を汚していいのはおれの血だけだ」

 やっと唇を離し息を整えながら囁くその声は、私にとって鎖にも似ていた。

「ギン……っ!」

 ニヤリと笑う彼の名を呼ぶと、自分の口元に着いている帰り血をチロリと舐めとり、私の首筋に顔を埋め赤い鬱血したものを咲かせた。

「名前、好きだ」
「っ……!」

 耳元で囁かれる言葉にピクリと身体が跳ねた。

「ギンは狡いねっ」

 何時も体を重ねる度に切なくなるのに、今の私はこんな些細な言葉で幸せを感じてしまう。

「ふ、何とでも言え」

 彼の頭がそのまま下へ行くのを感じ、視線を向けるとまだ彼の顔中に赤黒い液体があるのが分かった。


 私は赤という色に鎖で繋がれているんだ。
 幸福感に浸りながらそう思った。



-END-

JUKE BOX.様

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