10
「肺炎だったのか?」
「違いますよ〜」
「君、まさか完全に治してきたんだろうな?」
「はい、もう大丈夫です」
疑いの眼差しを鋭く向けるが、なまえに軽く笑い飛ばされてしまう。
最初になまえが学校に復帰したという連絡をくれたのは康一くんのほうだったのでなまえから連絡がきたのはその後だったが、ぼくの家に寄りたいというので了承してやった。
流石にまだ病み上がりなのかいつもより元気がない気がするが顔色は良さそうだ。
「すみません露伴先生、あんなラインしちゃって」
開口一番にこれだ。
いきなりぼくの一番気にかかっていた部分を串刺しにしてきやがった。
ソファーに座ったなまえに紅茶を出してやりながらぼくの心臓は絶えずドキドキしていた。
なまえの目は、ティーカップに静かに口をつけたままぼくを見てくる。とりあえずその上目遣いはやめてもらいたい。
ぼくは目を逸らした。
「なんだか風邪をひいたときって、心細くって...」
「フン....君にもそんなか弱い面があったとはな」
「仗助がお見舞いに来てくれて....ずっとそばにいてくれたんです」
「そうかよかったな」
本当ならぼくがなまえの元へ飛んで行きたかった。
だがぼくの中の複雑な感情が邪魔をして、それはどうしてもできなかった。
そうか....。
幸い、仗助がなまえを見舞いに行ってくれたようでよかった。
「ッ!?は、」
思わずソファーから勢いよく立ち上がる。
待て待て待て。
い、いま仗助って言ったよな!?
確かに言ったよな?!
「(え、ン?....お見舞い、ずっと、そばに、?)」
頭を抱える露伴。
混乱で頭が追いつかない露伴の取り乱したような態度に、なまえは驚く。
「露伴先生....?」
よくわからない、といった顔のまま露伴の様子を伺い知ろうと首をひねるのはなまえである。
そして、その顔を見て露伴の胸の中にはカァッと一気に熱いものが込み上げてくる。
それは露伴の目頭まで、痛いほどに熱くさせるのだった。
まずい。なんでだ、なんで、こんな....。くそッ、泣きそうだ。
感情が上手く制御できそうにない。
「君は....、誰でもいいんだな」
からからに乾いてしまった唇で、
やっとなまえへ向けて口に出した言葉は捨て台詞になり、ぼくはそのままリビングを出て行った。
必死に自分の唇を噛み締めながら、ぼくはなまえのおかげで血の滲むような苦しみを味わう。
ぼくの頭蓋骨が軋んだよ。
なんでぼくじゃなくて仗助なんだ、嫌だ、嫌だなまえ、ぼくのことを好きになってくれ。そう泣いてしまいたいくらい。
でもぼくはそれの意味するところに既に勘付いてしまっていたんだ。
もうずっと前からぼくは気づいていた。
だけど言えない。
ぼくはどうしても言えないんだ。
ぼくは本気でなまえが好きだ。
だけどかなわない。
ぼくは、こんなに、こんなになまえが好きなのに。
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