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その後はどうやって布団に入ったのかもよく覚えていない。その日は一日中イライラが止まらなかった。
帰ってくれと言わなくてもなまえはいつの間にか静かに居なくなっていて、ティーカップがぽつんとテーブルの上に放置されていた。
それを一人で洗うぼくの気持ちを想像できるかい?
ぼくは今まで、こんなに惨めな思いをしたことはない。
それもこれもあの女のせいだッ。なまえ。
あんな風に人に期待を持たせる発言をしたくせに、実は他の男に慰められていたなんて。あいつにはゲンメツだよ。
だがどうということはないさ。あとはもう、ただ部屋に籠ってGペンでガリガリと漫画を描いていればいいだけなんだ。いつもみたいに。

なのに、妙に流れるような線が描きづらい。いつもならばペン先がぼくのカラダの一部のようになって、呼吸をするように動くのに。
丸ペンに変えてみても、ミリペンで遊んでも何か引っかかる。ふざけるなよクソッタレ。ぼくは初心者じゃあないんだぜ。
イライラは治らない。
ぼくの呼吸は乱れていた。


なまえと仗助。
こんなに隣に並べて似合わない単語があるだろうか。なまえ、仗助、まったく似合わない。

ダサい。
なまえと露伴、のほうが何万倍もマシな響きだと心から思う。
あの仗助のやつは、一体なにをしにわざわざなまえのところへ行ったんだ。仗助が本当に心配で見舞いに行って、なまえも本当に具合が悪かっただけかも知れないなんてムシの良すぎる話も思い浮かべたりした。だけどむなしい。

それにしてあいつらはそこまで仲が良かったのか?
いや、ぼくは特に何も知らない。
なまえはぼくに自分のことや学校のことを言ってきたりしないからだ。
仗助と友達なのは前々から知っていたが、それも康一くんとセットだと思っていた。
勿論、ぼくからもなまえについてあまり聞いたことはない。
そんなことを考え出したらキリがない。ぼくはなまえのことが好きだが、どこが好きかと聞かれたらどう答えたらいいか分からない。
わかっていても、上手く言語化できない。
それもまたぼくを苛立たせる。

「(クソッ.....!ぼくがこんなッ!....ナメるなよッ!)」

ただ一つ分かること、それはぼくがなまえについて実はよく"知らない"らしいことだけだった。







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