18


自分がさっきまで幸せいっぱいでお花畑みたいな思考をしていたのを恨む。
私はちょっと情けなくなってギュッとこぶしを握り締めた。


「君はどう思う?」


というのも、露伴先生にまた質問をされた。「ぼくに恋人が出来たら?」だって。
なんでこう、毎回答えにくいところを聞いてくるんだろう。(とりあえず勘だけどピンクダークの少年には絶対に関係ない気がする。こんなことを指摘したら露伴先生の機嫌を損ねるから言わないけど....)

えー、と考えるそぶりをすると、露伴はおとなしくなまえの意見を聞こうとしていて、その手にペンを構えていた。

.......これって真剣に答えなきゃならないやつなんだね。
なまえはますます困った顔をする。

そうか。露伴先生に、恋人かあ。でもかっこいいしなぁ、普通にあり得る。
だって彼女いないって聞いたときには電撃が走ったからね....!ウソだぁ....!って!

「まあ、このぼくには作ろうとさえ思えば恋人なんかすぐに出来るが」

露伴がそう付け足すと、なまえはうんうんと頷いた。
だがこの動作は先の台詞の肯定ではない。

「(そうそう、こんな態度だから彼女いないんだろうな....)」

まあ、出来て欲しくないのが本音だ。
けれどそのままストレートに「露伴先生に彼女なんて出来ません!」とか「露伴先生が好きなので他の女の子はいやです!」とか、そんなことを言うつもりは毛頭なかった。

しかし、

「まあ.....誰でもいいって訳じゃありませんもんね?」
「.....ああ、それが誰でもいいんだ。年下でも年上でも、どこかにいないかなァ。ぼくと付き合う気のあるヤツは。」

それは思ってもみない言葉だった。
なまえは目を丸くする。

まさか露伴先生がそんなに低いハードルだったなんて....人は見かけによらない、とでもいうのだろうか。
思わずぽかん、と開いてしまった口を閉じ、ごくんと息を飲んで露伴先生を見る。

「別に美人じゃあなくてもいい。ぼくのことを心から愛してくれるのなら」

そう言って露伴はふう、と切なげな吐息を漏らした。
なまえの心臓がどきりと鳴った。


私は露伴先生のこと、

「、っ」

危ない。言いかけた言葉をグッと押さえつける。ダメだ。ダメダメ。
こんなのはよくない。
そう頭で分かっていても、欲望が脳内をうずまく。

露伴先生の恋人になれたら、どんなに幸せだろう、。

そんなことは夢にも思わない、いくらなんでも無茶なはずなのに。

「どうした?なまえ」

露伴の声が、なまえの心をグラグラと揺らす。
ああ、言ってしまいたい。このまま狡い女でもいいから....。


「、......も、か」
「ン?」





もご、となまえの口が動くのを、露伴は見逃さなかった。
なまえの顔がうつむかないように、露伴はなまえのそばに寄って、下から顔を覗き込むように見上げる。

露伴はその震える唇に、噛みつきたい衝動を、今は必死に我慢する。
そしてなまえの気持ちがこぼれ落ちたまま、流れてしまわぬよう、言葉を優しく彼女の手のひらにひろいあげておいた。

無論、そのタイミングはバッチリ。

露伴のなまえを誘うようにみえる目が、なまえ、ただ一点に集中していた。

「わ、.......わた、し....でも、いいんですか?」

そしてなまえは口を開く。
それからすぐに
やった、と露伴は思った。
なまえが自分の思い通りになっているのに喜びを感じる。
笑いが止まらなかった。ああなまえ。
ああ欲しい。今すぐ。
もう少し、もう少しで向こうからこっちへくる。
そうだ、ぼくのやることはたった一つじゃあないか。
あとは呪いの言葉をなまえにかけてやればいい。


「君はぼくのことが好きなのか?」




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