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どうしよう。

嬉しさと不安でいっぱいだ。
もちろん嬉しい。飛び上がるほど嬉しい。でも、いざ大好きな人と恋人同士になったとなると....。
何をすればいいかわからない。
自分自身が石像のようにカッチコチに固まってしまったみたいだ。
ぶっちゃけ言って私には彼氏なんて出来たことはないし、......これからどうなるんだろう。


そう思っていた矢先だった。

なまえはいつも通り目覚め、布団から出て学校へ行く支度を終えた。
家を出るまでの間に、前髪を整えるのが上手くいった日は決まって時間が数分だけ余る。なまえは出発前に一息だけつくためにコップにいれたお茶を飲みながら、スマホを手に取った。


「ぶふぅ、ッ!」


電源ボタンを押して、メッセージの通知欄に目を通していたなまえがゲホゲホと咳き込む。
お茶を無理矢理に飲み込んだので生理的な涙がでてつらい。心してもう一度メッセージを確認する。

『びっくりだよ!露伴先生と付き合うことにしたの!?おめでとう!よかったねなまえ!何かあったら言ってね!』

これは康一からだ。時間を見ると今日の0時に送信されている。絶対に露伴先生が康一に言ったんだな、と頷く。

『おいィ!康一のみならずお前まで俺を置いてくのかよォ!なまえが居なくなったらよォ!もう俺には誰もいねぇよ!』

これは億泰からだ。何と無く言わんとしている内容がわかる。なんで億泰にまでバレてるんだろう。

『よぉ!なまえ!おい見たか?露伴のインスタ』

億泰への返信は置いておくとして、私はこの仗助からのメッセージが一番気になる。

嫌な汗を背中に感じながらもアプリを開いた私は絶句した。


「(な、な、何これェェ!?)」


そして私は、いつもなら徒歩で通学するというところを、露伴先生の家まで遠回りしてチャリを走らせるハメになったのだ。





「露伴先生!どういうつもりなんですかッ!」

無遠慮に部屋へと上がり込んで、ずかずかと露伴先生の元へ進むと、そこにはいつもと違い、パジャマのままの露伴先生が欠伸をしながら座っていた。
....かっこいい。いや違う。

「どういうつもりって何が?」
「何が、じゃありませんよっ、付き合ったことみんなが知ってて....インスタに記念日とか私のイニシャルとか載ってるんですけど....」

それでも、何が?と心底不思議そうな露伴先生に頭を悩ませる。
そもそもこういうお付き合いって、周りに言いふらすものなのだろうか。
仮にも超有名漫画家なのだから....そう考えているのは私だけのようで、露伴先生は私の近くまで歩いてくると何かを渡してくる。

「?これは、なんです、か。」
「それはぼくが買っておいたんだ。見えるところにつけておけよ。」

センスの良い小さな紙袋で渡されたそれは、またまた可愛らしい箱に入っていた。形状からして、ネックレスか何かかな?
緊張しながら両手を出して受け取ると、露伴先生は満足そうに頷く。
いつの間に買ってきたんだろう....。

「えあ、ありがとう、ございますッ」
「それと、露伴先生じゃなくて、露伴だろ?」
「ろ、はん?」

首を傾げながら発音する。
すると露伴先生、.....もとい露伴は何か一瞬だけ顔を腕で隠したあとに「ああそうだ」と短く答えてくれた。


露伴だなんて。
私は照れてしまってうまく露伴先生の顔が見れなかった。

「それで、なまえ」
「はい?」
「いやなんでもない」
「えっ、気になります。なんですか?」
「大したことじゃあない」
「気になりますって!教えて.......!あっ、?」

不意に鳴った音で止まると、胸ポケットに入れていたスマホが振動しているのに気が付いてワッとする。

着信だった。
なんだなんだと急いでタップすると、相手は見慣れた名前ーー。

「ッああ!そうだ!仗助に...!」

「東方仗助」の表示を見た途端に私は一気に現実に引き戻される。
しまった。
今日は確か週番を交換する約束と、飼育当番の引き継ぎと、体育祭の朝練があったはずなのだ。それをたった今ここで思い出した。
時計で時刻を確認すると7時55分。
まずい。非常にまずい。
露伴先生の家にほんのちょっぴり寄ろうと思ったらこれだ....!
こうなったらチャリで飛ばすしかない!
なまえは既に走り出していた。

「露伴先生!スミマセン!また来ます!」
「おい待て!ぼくの車で.....」

露伴の声は届かない。
なまえが部屋を飛び出していくほうが遥かに早かったようだ。
露伴が仕方なく部屋の窓から外を伺うと、スマホを耳に当てながら必死に自転車をこいでいくなまえが見えた。


「ハァ....これを置いていきやがった」




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