22

午後14時。小腹が空いた頃。
いつもなら露伴先生の家に顔を出してクッキー缶なんかを拝借することもあるんだけど....

今日は土曜日なのに全員参加の模試があって、私たち高校生は朝からこうして駆り出されてきたわけで、お腹のすいた若い血はこうやって放課後ティータイムをしたがるのである。

周りには高校生がちらほら。

カップルで来てるのは隣のクラスのつい最近付き合った子たちらしい。
(わたしってなんで仗助よりそういう情報に疎いんだろう.....)



それよりも、

ポケットから何度か振動がしているのに意識がいく。
このスマホのバイブ音が、露伴先生からの呼び出しだったら....と考えると私は嬉しくもあるが、なんだかモヤモヤしてしまった。
視線を横に逃がすと、注文していたプリンが運ばれてくるのが目に入ったので、横からスプーンを取り出す。

「ぶっ!くっ!あはははははは!」
「ちょっと!仗助!笑い事じゃないんだから!」
「あはっ、はぁ!ヤベぇよ!それは笑うしかねぇって話だぜ!」

なまえは声を上げて笑う仗助を身を乗り出しながら注意した。
それでも仗助は笑いっぱなしで、涙目になるほど笑ったあと、チューチューと一生懸命にアイスラテを飲んでいた。
.....まったくこいつ。私は真剣に悩んでいるのに。なまえは眉間にシワを寄せながらオレンジジュースを飲む。

とは言いつつ、いつも相談に乗ってくれるのは仗助だと分かっているので、これ以上は何も文句が言えなかった。
仗助は何かと面倒見が良い。
テスト勉強もたまーに一緒にやるし、忘れ物をした時には貸してくれる
。この間は私が風邪をひいた時にお見舞いに来てくれたし。不良のくせに優しい。

いつの間にか仗助を見つめていたみたいで、仗助は居心地の悪そうに「笑いすぎて悪ィ」と苦笑いしてきた。


「いやァ....予想以上だわ。」


そのまま急に真面目な顔になった仗助。
私もうん、と軽く頷く。


そう、"予想"以上なのだ。

先生と付き合って一週間が経つと先に言ったかも知れないけど....
実は付き合う際の条件として最初に決められたルールの他にもさらに細かいルールを定められている。
仕事場を訪ねる回数、ライン、通話の回数や制限。髪型や服装なんかも日によって露伴先生が指示することもある。
束縛が激しいってこういうことなのかな....。
でも私が何より驚いたのは、「なまえ、これから近所の坂を自転車の二人乗りで下りに行こう」と言われたことだった。
思わず聞き返してしまったが、本人は至って真面目らしい。
他にもある。手料理が食べたいと言われたので簡単なものを作ると、それを何時間もかけて観察しながら食べていたり....昨日はストップウォッチを持って家から露伴先生の家までの距離や歩くスピードを測られた。
はっきり言って、こんなことが毎日あってはすごく疲れてしまう。
でも露伴先生を否定したくないし、露伴先生のことは好きなのだ....。この気持ちは嘘じゃない、確かに。


「うん....私もね、予想とはだいぶ違うんだけど....なんか露伴先生....違う人みたいになってて....ちょっと怖いし...」
「俺から見たって別人だぜ...」
「それで戸惑ってるのもあるし、なんか後悔っていうか....」
「後悔?」

仗助はピクッと肩を揺らす。
後悔っていうかねえ、となまえは空を仰いだ。

「やっぱり....ちゃんと、告白したほうが良かったなって思うの。流れで付き合えることになったってだけで、私自身、....すっきりしないのもある...」
「.........」

俯いたなまえに仗助は黙ったままだった。なんとなく何か口にしていないと落ち着かないのか、なまえが話をし出してから飲み続けていたので氷の溶けた味しかしない。


「気持ちは好きなんだけどね、露伴先生のことなら全部受け入れたいって思うのに....なんだか辛くなってきて....こんなこと、仗助にしか言えないんだけど」

なまえは苦々しい顔をした。

「いや、....なぁ....でもよォ、こいつはヘタすると露伴のやつが異常じゃあねぇかよォ....」

別れたほうがいい、そう言いたくても今までなまえの露伴への気持ちを知っていた仗助はどうしても簡単には言えず、そのまま口を閉じた。


と、その時だった。



「二人で何してる」



おそらく自分達に向けて発せられたであろうその台詞に、なまえが顔を上げる。

「(......え、)」

なまえは今しがた手にしていたはずのスプーンを床に落とした。
ドクン、と心臓が飛び上がって、それから信じられない速さで動き出す。

そこには露伴がいた。

その先はなんで?とか、どうして?なんて考えることも難しかった。
私はただ口をポカン、と開けて見上げることしか出来ない。露伴先生の目が私を見下ろしている。

「、露伴先生」

今、私はどんな顔をしているんだろう。たった今、露伴先生の話をしていた ばかりだ。
聞かれただろうか。いや、そんなはずはない。

「......俺、帰るっス」
「えっ、」

また明日、と店を出て行ってしまった仗助に行かないで!とも言えるはずがない。この空間には私と、露伴先生だけが残される。


「...........」
「あの、....!露伴先生!」


くるっと踵を返し、露伴先生が離れて行く。私は顔面からサァッと熱が引いていくのを感じて必死に露伴先生を追いかけた。店を出た先生は車に乗り込むところで、待ってくださいと声をかけた私は無視された。

「ど、どうしよう.....」

足元が震えそうになり、真っ白な頭のまま会計を済ませ、私は歩いた。

いっそこのままどこか遠くへ行ってしまいたかった。




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