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特に面白くもないが、ぼくとなまえの話はこれくらいだ。あとから考えてみると、ぼくらの気持ちが通じ合うまでには時間がかかったし、思ったよりもずっとひどい遠回りをしたようだった。
けれどぼくは、.....ぼくが本当にやりたいことは君とこれからも寄り添っていくことなんだ。
だからぼくは、今はゆっくりと君との愛を育みたいと思うんだ。
君だって、きっとそう思うよな?
そうだろ?なまえ。

そう名前を呼ぶと、まるで計られたように下の階でドタドタと足音が聞こえてくる。
露伴は思わず笑みを漏らした。
このまま階段を登り、真っ直ぐに自分の元へやってくるであろう恋人のことを考えると、自然と笑ってしまうのだから仕方がない。

それから間もなく、この部屋の入り口である唯一のドアが容赦なく開かれる。

「っはぁ、はぁ!間に合った....あれ、露伴...?」

部屋に足を踏み入れる前に、目線で露伴を探すなまえ。
露伴は先ほどまでの笑いを静かに仕舞うと、ここだ、とひょいっと体を浮かせた。
なまえの目が露伴を捉えて、パッと輝いたように見えた。

「ごめんなさい!遅くなっちゃいました!みんな盛り上がっちゃって...康一の誕生日の前祝いなんかしちゃったりして」
「ぼくを置いて随分と楽しんだんだな」

わざとらしく溜息をついてやれば、代わりに、うん!なんて元気よく答えてくれるなまえにそろそろ本物の溜息をつきたくなる。まったく、素直でバカなのはいくつになっても変わらないのだろうか。
だが露伴からしてみると心配でならない。今年から大学生になる彼女に彼は日頃からなまえに、社会は思っている以上にドス黒いのだ、怖いのだ、都会はジャングルなんだぞ、というのを叩き込んではいる。

「ごめん、じゃあ、行きましょうか!」
「オイオイ待てよ。その制服のまま行く気か?」

勢いよく飛び出しそうななまえを止めると、その可愛らしい目がぼくを見上げながらこういった。

「駄目?」

..........こいつは。なんだってこんな可愛いんだ。駄目じゃあないぜ、なんて言ったらさらに反撃にあうのだろうか。

「........誰が恥をかくんだよ誰が」

結局、ぼくが根負けして目を逸らすと、ありがとう露伴〜!なんて笑われてしまう。
まずい。近頃はこのパターンが多いな。
それにしてもこの女、本気で制服で出かける気だな。

「なまえ」
「はい?」

とりあえずバカ丸出しの恋人のしつけはあとでするとして、
わざとらしく息を吸い込む。


「卒業、おめでとう」


晴れの日を祝うために、ぼくはこの時ばかりはとびきり心を込めて言ってやった。
するとなまえは照れくさそうに、それでも大きく頷きながら言った。


「ありがとう.....露伴」


ようやくこの時を待ったんだ。
ぼくは嬉しかった。もちろんなまえも同じ気持ちだろう。


この日、なまえは無事に高校を卒業した。





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