32

朝になるとなまえのぬくもりが消えていたので、露伴は目を覚ました。
サッと時計を確認すれば時刻は六時半である。....やっちまった。
原稿の仕上げがしたかったんだが....。
朝まで寝てしまうとはな。
まあ、仕方ない。なまえがぼくの部屋をおとずれて、離れたくないとわめくものだからぼくはベッドからは一歩も離れられなかったんだからな。

露伴は言い訳をしつつ、ベッドの上で身体を伸ばす。なまえはどこにいったのだろう。そう考えながら立ち上がると、なにやら部屋の中へバタバタと忙しなくぼくの探していた人物が入ってきたので目で追う。

「ほはん!きょふは、いちひへんはらはるはら!」

歯ブラシをくわえたままやってきたなまえは、ぼくの本棚から漫画を1冊抜きとって、カバンにしまい込んだ。
ピンクダークの15巻だった。
前に聞いたがどうやら通学電車の中が暇らしく、いつも読みながら暇をつぶしているらしい。(こいつぼくの作品を暇つぶしのために読むだなんて舐めてるな)

「で、なんだよなまえ。まったく伝わって来ないんだが」

ぼくが苦笑いで彼女を見ると、なまえはまっへへ!(待ってて!)と言ってまた洗面台へ走っていき、次はすっきりした顔でまたぼくのところへ帰ってきた。

「今日は一限からあるから、もう行きますって言ったの!あと、友達と夜ごはん行ってそのまま泊まるね。」

口元をタオルでごし、と拭くなまえ。ぼくは一気にテンションが下がった。なまえがお泊まり?そんなのぼくが許した覚えはない。

「ム.....せっかくの月曜日なのにかい?」
「せっかくのってなあに?」
「ジャンプの発売日だよ!ぼくの描いた漫画が世の中に出る日だよッ!こんな日に君は出かけるのかッ!」

ぼくがワァッと叫ぶと、まるであらあら何を言ってるのかしらこの人は、という目をされた。完全に呆れられた目だ。
そんな目でみないでくれ。
自分がワガママを言ってるのはわかっているが....ムムムム.....。
だって寂しいンだもん!なまえと離れたくないもんね!
昨日はなまえの可愛いワガママを聞いたんだからッ!今日はぼくのを聞いてくれェ!

「ねえ〜!今日も一緒に寝ようよォ、なまえちゃ〜ん。昨日はあんなに甘えてきただろ〜、ンンンン?ねッ、ぼくはあれからお預けをくらってるんだよ?」

ぼくはなるべくやさーしくなまえの手を自分の方へ引っ張って、膝の上に乗せようとするが、なまえはぜんぜんなびこうとしない。くそ。

「ちょっと!からかわないでください!」

ぼくを拒むなまえだが、ほんの少し赤みを差したその頬っぺたが可愛いくて仕方がない。
ほら、これだからやっぱり外には出歩かせたくないんだよ。

「ところで、昨日は何の夢をみたんだ?」
「ふん、そうやってまーた人をからかって面白がる気ですか?」
「わかったわかった、悪かったよ。これでいいだろ?」

ごめんごめん、と頭を下げて申し訳なさそうな顔をつくると、なまえが唇をきゅっと結んだ。
そしてボソボソと小さく呟く。

「別に、ただ.........露伴先生が、ぜんぜん知らない女の人と結婚してて、子供までいるっていう夢をみたんです、」
「は、っ」

目が丸くなる。
なんだその意味のわからん夢は。
なまえはただ、そんな非現実的な夢に怖がって泣いてたっていうのか....!
バカだ...!本物のバカ!
だが、.....だがッ、


「(ばかわいいい.....!!!)」

ぼくは身悶えた。つらい。床を転がり回りながら摩擦熱で家が火事になりそうなくらいだ。

「!こ、怖かったんだからしょうがないでしょ、!」
「いや、........だが君は、そんなにぼくが好きなんだな」

堪え切れないニヤニヤを手で覆い隠しながら、なまえに問いかけると、なまえは観念したのか素直に「すき、」なんて呟きやがった。
あああああつらいよ!つらい!こんなに可愛い女がこの世にいるかい!?
ぼくはたまらなくて、彼女が好きで好きで仕方なくて抱きしめた。

「ぼくもなまえが好きだよ」

そして何度も言った。彼女がいやだと言うまで。
最高の朝だよ。これが最高にハイってやつなのか?
え?一限から授業があるなんてことは、ぼくらの知ったこっちゃあないさ。




back

ALICE+