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「やっぱり、ママやパパにも見せたかったなぁ」
「だからぼくも言っただろう。ぼくは構わないからご両親も連れてくればいいって。」
「まさかイタリアまで来るとは思わないから....」
「君がイタリアに行きたいって言ったんじゃあないか。」
「そうだけど.....」

露伴はやれやれ、と両手を投げ出す。
この旅行はいわゆるハネムーンというやつだった。
なまえは国内でも充分良かったが、
海外で行きたいところはどこかと聞かれ、咄嗟にイタリアと答えたのが始まりである。露伴が、いいね!と賛同してしまったので短い間に計画を立て、あれよこれよといううちに日本を発っていた。
まったくこの岸辺露伴という人の行動力になまえは驚かされてばかりだ。



アマルフィ海岸の街、ラヴェッロ。
ここが露伴が滞在するのに選んだ街だった。
海抜約350メートルの高台に位置するこの街は、「音楽の街」とも呼ばれ、サレルノ湾とその景観の美しさには多くの芸術家たちが魅了されてきたという。


窓を開けて、ホテルの部屋から見える眺めを確認した露伴は、穏やかな顔になった。どうやらこの部屋から見る眺めは、露伴のお気に召したらしい。
その証拠に、鞄からスケッチブックを取り出した彼はその窓のそばに椅子を持っていって座った。


「君の願いはなんだってぼくが叶える。」

そしてこんなことを言うのだ。

どうせしばらくはスケッチに集中するだろうと思って遠くでおとなしくしていたなまえはきょとん、とする。

「だからなんだってワガママを言っていいんだぜ。」

なんて、鉛筆を指に挟んで、その顔はいかにも得意げである。
いきなり何をいうのかこの人は。
少しだけおもしろおかしく思いながらもなまえは露伴に付き合う。

「..............じゃあ、インドへ行きたいって行ったら?」
「もちろん連れて行くさ。インドでも南アフリカでも」
「ふふ、すごいね、露伴」
「簡単だよ。ぼくを誰だと思ってるんだ?岸辺露伴だぜ?」

この人はなぜこんなに嬉しそうなんだろう。なまえはくすくすと笑った。

「はいはい」




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