05

どれだけ探し回ったことだろう。
逃げ足が速いとでも表現するべきなのか、なまえはなかなか見つからなかった。

果たしてなまえはたった一人でジェットコースターの先頭に乗っているところを露伴に発見される。
自身のスタンドであるヘブンズドアーを使い、やっとの思いでなまえを見つけた露伴は思わずその場に崩れ落ちた。




「あれっ!先生もジェットコースターに並ぶんですか?」

なまえがちょうど自分が乗ってきたアトラクションの降り場にしゃがみ込んだ露伴に気が付いて不思議そうに首を傾げる。


「違う。ぼくはただ見ているだけだよ。あんなものに好きで乗ろうとは思わないさ。」

具合でも悪いのだろうか。ジェットコースターの宣伝の看板の柵になんとか掴まってゆらゆらと立ち上がった露伴がひどく物憂げな顔をしていたこともあって、なまえはさらに心配になった。
もちろん、なまえは露伴がなまえを捜していたなんて知りもしないわけで、露伴に勝手に乗り物に乗ってきていいと言われたので単にそうしただけだった。

「すごく楽しかったです....!」

なまえが露伴に笑みを向けると、露伴はハァ、と深くて長ーいため息をついた。

「...どうしました?露伴先生」
「どうもしない。ただ疲れた」
「どこかで休みます?」
「気にしなくていい。そうやって人を置いてけぼりにして自分だけでキャーキャー言ってればいいさ。」

露伴はツン、と鼻先をそらす。
完全に拗ねている様子だ。
なまえは露伴の機嫌を自分が損ねてしまった、と焦り出す。
この場合、どちらかというと自分勝手なのは露伴のほうなのだが。
なまえは露伴をよく心配し、どうしよう、どうしようと頭を回転させるのに一生懸命である。

「じゃあ、クレープ食べません?わたし、奢ります!」
「たかが高校生の少ない小遣いで?このぼくにいい気をするなよ」
「すみませんはい....!でも、....それなら向こうに座りましょう」

ぷんぷんと怒っているままの露伴をなんとか連れ立って、
なまえは日陰へ移動する。

「喉渇いてませんか....?」
「...別に」
「昨日...徹夜させちゃったんですよね、ごめんなさい。疲れてるのに。」

眉を下げるなまえに対して、いや、君のせいじゃない。そう言いたかった露伴だったが、まあ確かになまえのせいで自分が不機嫌なのは分かっていたので無言のままだった。
そのうち、気まずくなったなまえがトイレに行くと言って席を立ったので一人になった露伴は、がくっと自分の頭を下げた。


「(ハァァ......)」

ぼくは一体なにをしてるんだ。
一人で勝手にぐちゃぐちゃして、なまえにあんな気まずそうな顔をさせて。
ぼくはそんな顔をさせたい訳じゃない。
本当は、......笑顔がみたい。

ぼくは、ぼくはただ、なまえが本気で割引が目当てでぼくを誘ったのだと思いたくなかったんだ。
都合の良い考えだよ。わかってる。
けど一人でジェットコースターに乗ってるなまえなんか見たら、露伴先生なんていなくても楽しめますよ、なんて言われてるようなものじゃないか。

もしもこのぼくが断っていたら康一くんや仗助だって、誘ってたのかも知れない。

そう考えたら、たまらなかった。


なまえが戻ってきたら、具合が悪いと言って帰ろう。これ以上なまえといたら余計なことまで言って傷付けて、取り返しのつかないくらい嫌われてしまう。

「露伴先生」

いつの間にか、なまえがぼくのところへ戻ってきていた。

「なまえ、悪いがぼく....」
「あの、やっぱり勝手に買ってきちゃいました。飲み物くらいなら....と思ったんですけど」
「......」

なまえはそう言ってぼくの前にそれを差し出してくる。
.....これはどうしたものか。
一旦、呼吸をおいてからプラスチックカップを受け取ると、手のひらにはりついてくる水滴が冷たい。

急にこわくなってなまえの顔を見上げると、なまえはぼくを見て優しく微笑んでいた。

息を呑む。

ぼくはその美しさにしばらく見惚れていて、動くことができなかった。

なんだ、この感覚は。

彼女のそれはこの世界のどんなものよりも柔和で、こんなぼくのことを全て赦してくれる、そんな気がするほど神聖だった。


天使に出会った。


その時ぼくはそう思った。



back

ALICE+