07

先週、ぼくとなまえは遊園地へ出かけた。
別に世にいうデート、なんて甘いものじゃあない。(カップルとして入場したはずなのに即別行動してたからな)

現地ではいろいろとあったが、結果から言えばなまえはやっぱり可愛いの一言に尽きる。

特に、ぼくはあの微笑みが忘れられなかった。
ぼくを見つめるあの眼差し、今までどんな芸術作品を見てもあんな気持ちにさせられたことはない。

恋は盲目、というやつか?
だがそれと同時に、ぼくは多少なりとも辛い思いを味わった。
いつも自分ばかり彼女のことを考えている。今だってそうだ。
彼女のことが気になって仕方がない。


露伴がペンを置いたタイミングで、インターホンが鳴る。
視線で時計を確認すると、ちょうどいつもなまえが訪れてくるような時間帯だった。
露伴は腰を上げ、なるべく何も考えないようにしながら玄関へと向かった。

「あ、露伴先生」

ドアを閉めた。
なぜかと聞かれたら、ドアを開いたら目の前に康一くんがいたんだ。
そこまではよかった。そこまでならぜんぜんよかったんだがその後ろにあのクソッタレの仗助まで見えた。

「その態度は何だってンだよォ!」
「わあ!仗助くん!」
「しゃーねえ、ドア壊すか。」
「やめろ」
「露伴、最初からおとなしく出てくればいーンすよ」

家のドアを壊すとかなんとか言ってる相当クレイジーな頭のやつを一発殴ってやろうかとドアを開ける。
クソッ、そのムカつく顔と髪型をむしろヘブンズドアーしてやる!

とは口に出さない「大人」なぼくは、代わりに仗助を睨みつけながら用件をたずねてやった。

「何の用だよ」
「なまえが風邪ひいたんスよ」
「はぁ?なまえが風邪?」

眉を潜める。その後に康一くんが横から説明してくれたが、なまえは学校も早退していて高熱があり、かなり気分が悪そうだったそうだ。


「いや...........だから何なんだ。なまえが風邪をひいたことと、ぼくと何の関係がある?」
「別にィ、俺らただ、なまえからこれ預かっただけで」


仗助のやつは鞄から1冊の漫画を取り出した。
ぼくは黙ってそれを受け取る。これは確かになまえに貸していた読み切り短編集の漫画だった。
5日以内に返さなければ縁を切るぞ、なんて言ったんだったか。なまえがぼくの言ったことをバカ正直に受け取ってしまう本物のバカ女だということをすっかり忘れていた。


「じゃあ、それだけっス」


何か言おうと思ったが、康一くんも仗助の背中に続くようにしてさっさと帰ってしまった。
どうやら本当に頼まれただけらしい。
漫画を手にしたまま部屋に戻って、ぼくはしばらく考えた。


なまえが風邪か。
あいつのことだ。薄着で腹をだして寝ていたのかも知れないし、雨に降られたまま呑気に傘もささず歩いてたのかも知れない.....。

この際だから正直に言ってやる。

すごく心配だ。今すぐに見舞いに行きたいが、そんなこと出来ない。

見舞いになんか行ったらあの馬鹿は具合の悪いカラダでもぼくを必死にもてなそうとするだろう。
そうだ。ぼくに気を遣うに決まってる。それに、人気漫画家のぼくに風邪がうつったら大変だし...。
そんな理由まで考えている自分にとうとう嫌気まで差してきた。


違うだろう。


本当は知ってるんだ。ぼくはただ、こわがっているだけなんだって。




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