星に願いを

「 サン・ロレンツォの日?」
「うん!イタリアにある日だな!ちょうど、ペルセウス座流星群がよく見える時期で流れ星にお願いするんだよ」

帰り道。楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう空はすっかり真っ暗だ。帰国後丸一日時間があったのは今日が初めてで、数日前からカレンダーに印を付けてずっと楽しみにしていた。

二人での時間は何時だって予定通りにはいかない。目的地に向かうまでの電車はウッカリ乗り過ごしてしまうし、やっとの事で着いたかと思うと今日は定休日だったり。それでも予想外の出来事は不思議なことに何時だってどこか楽しいものだ。「サナ、行こう!」とキラキラと目を輝かせた彼に手を引かれるまま乗り込んだ電車は聞いたことの無い駅まで続いたけれど私の胸を弾ませた。

(レオくんはまるで魔法でも使えるみたいだな)

帰り際、最寄りの駅に偶然揺れる笹の葉と短冊を見つけた。「折角だし、書いてくかっ」なんて嬉々としてペンと短冊を握る姿がどこか幼げで思わず、くすりと笑いを零すと馬鹿にされたかと思ったのか「むぅ」と彼が顔を顰める。そんな姿を横目に短冊にペンを走らせ、笹に飾り付け終わった瞬間に帰りの電車の出発の知らせが響いたものだから二人して慌てて駆け込んだ。
 
何やかんやで乗り込んだ電車が無事、駅に着いたところでふと彼が今過ごす場所にもそんな習慣があるのかと疑問に思ったわけだ。そこで冒頭の会話に戻る。

今日は、雲一つない空で夜空には先程からチカチカと幾つか星が瞬き、大きな満月が浮かんでいる。

「まさに星に願いを、 だね」
その日のイタリアの夜空を瞼に浮かべる

空いっぱいに広がる星空、澄み渡る空気に、小さな静寂。夜空を見上げるこの綺麗な男を想像して心臓がキュッと音を立てた。

(レオくんは、何を願うんだろう)
 
「な〜サナはさっきの短冊の願いなんて書いたの?」
「うぇっ!?」
「お?」

まさかのタイミング。まるでこちらが彼の願いを想像しているのが読まれたかのような。

「…嫌だよ、言ったら叶わないってよく言うし。」
「むむ、それもそうだな……安易に答えを求めてもつまらないし!やっぱり自分で考えるっ」

ふんふん、と鼻歌を歌うかのように彼は私の少し先を歩いていく。そうして、見つめるその背中はだんだんと遠くなっていく。

こうして、会える日々を愛おしく思う。きっと、当たり前ではないからこそこの空間をより大事にしたいと噛み締めたいと心から願っているからだろう。
(レオくん、私はね。織姫様の気持ちをよく妄想するよ)

きっとこの先もこの距離をどうしようもなく不安に思うんだろう。進む背中を追いかけるのはいつだって幸せでただほんの少し、苦しい。この恋は簡単なものじゃない、

(それでも、どうか、お星さま。)

半歩先を歩いていた彼の元に駆け足で近寄り、そのまま手を握った。手を繋ぐなんて、先程だってしたばかりなくらいなのに自分からすると、無性に恥ずかしくなってしまい目を見る事はできなかった。彼は繋がれた手をチラと一瞥したあと、ニヤリと笑った。

「こっちの方がいいなっ」
クイッと手を引かれ、距離が縮まる。吐息が感じられる距離に思わず声が上ずりかけたが、握る手の力をそっと強め、なんてことないように空を見上げた。

「あの星はなんだろうね」
「なんだろーなっ。それこそ名前のない星かもしれないけど、」
「そこには何か住んでたりする?」
「ん〜そうだなぁっ……」

こんな在り来りな夜を繰り返して、この日々を刻みつけて、そうしてまた彼との日々が重なっていくのだ。

夜空は私達を照らしている。