まるで音楽のように

フワリ、と潜り込んだベットから彼の匂いがした。それによりただでさえ、煩い心臓がまた音を立てる。真っ暗な部屋の中1つのベットでほんの少し動いたら互いに触れてしまうようなそんな距離。なんでこんな状況になったんだ、と思わず数分前の事が脳裏を過った。

食事、お風呂……ときたら次は睡眠だ。この部屋にはベットは1つしかない。そうなると必然的に双方どこで寝るかという事が話題になるわけだが、当初からソファーで寝る気満々だった私は迷うことのない足取りでソファーに向かい、そこで彼に呼び止められた。ベットで寝ないのか?という彼の言葉に私は当たり前かのように「だってここレオくんのお家だし……」と零す。「サナ女の子だろっ、ちゃんとベットで寝ろよっ」と反論する彼に対し、「でもこの間もソファーで寝てたでしょっ…!レオくんお仕事もあるし…。何より心配だから私がいる日ぐらいはベットで寝てっ」と正論を投げると覚えがあったのか一瞬苦い表情を彼が浮かべる。だが次の瞬間にはわずかに口を尖らせふいっとそっぽを向き「でもダメなものはダメだっ!おれもサナのこと心配だからベットで寝て欲しいもんっ」と彼が返したことにより始まった攻防が数分間。お互い譲ること無く、一悶着の末つい「じ、じゃあっ一緒にベットで寝よっ!そしたらいいよね?!」と言ってしまったのは私だった。

とびかけていた意識をなんとか引き戻し、小さく息を吐く。静まり返った部屋にはチクタクと時計の針の音だけが響く状態で、彼の僅かな吐息すら聞こえそうだ。改めて意識するともうダメでぎゅうっと目を瞑った。どれ程時間が経ったのであろうか、
「……なぁ、もう寝ちゃった?」と彼の声が響く。「ん、寝てないよ」と言葉を返すと小さく彼の笑った気配がした。彼の方へ視線を向けるといつもは凛々しい眉をへの字に曲げた彼がくしゃりと笑っていた。
あのな、と彼が言葉を切り出す。「サナが今隣にいるって思うと、頭がチカチカするんだ。心臓はずっとうるさいしなっ!頭ん中だけじゃなくて、ここもずっと音が鳴ってて甘ったるい音とか優しい音ばっかり出てきてさ」そう言いながらここ、と彼が心臓に手を当てる。
「…………サナ、ちゅーシたい。」
存外真剣に響いた声に返事をするよりも先に少しだけ体を寄せ、唇にそれを重ねた。豆鉄砲を食らったような驚いた表情を浮かべる彼に対し、遅れてジワジワと熱が集まってきた私は勢いよく布団に潜り込んだ。「サナの事まだ全然わかんないな、いつも驚かされてる気がするっ」と頭上から聞こえてくる声は内容に反して何処と無く嬉しそうなで余計に熱があがる。顔を見せるのはまだ恥ずかしかったので底からだって、と言い訳をする。「……すき、だなって思ったら無意識にしてただけ」聞こえるか分からないほど小さな言葉で言ったつもりだったのに、さすが現役作曲家バッチリ聞こえてしまったらしい。

ペラリと、布団が捲られて視界が彼いっぱいになったかと思うと勢いよくぎゅうっと抱きしめられる。こちらが反応するよりも先に「サナっ、大好きだっ。おれも愛してるっ」ストレートすぎる言葉に恥ずかしい気持ちやそれにより隠れたくなる気持ちはあるのに彼のその声色が嬉しくて、私はただ彼の名前を呼んだ。夜明けまであと数時間。彼の温もりに包まれながら、その体温を何よりも愛おしく感じてそっと目を瞑った。朝になったらもっと素直になれるだろうか