それはとても綺麗だった

21-19という数字たちに私はどうすることもできない。もちろんできる状態だとしてそれを変えるなんてことはできる訳立場な訳でもないけれど。

最初、行くかどうかは迷っていた。校内の熱気の中に溶けるわけでもなくふらふらしていた私に、是非試合に来てと誘ったのは他でもなく瀬見だった。
東京まで応援に来るのは大変だろうから、恐らくこれが応援に行ける最後の機会だと。そしてそれが半分建前だということも、自分のバレーを見てほしいという本音も含めて、私の胸に飛び込んだ。

応援の太鼓の響きに、みんなの声に全身を震わせて。緊張にタオルを握り締めながら、ため息でどうにか心を落ち着かせて。応援はちゃんと届いていたと思う。

誰かが不調だったわけでも、コンディションが悪かった訳でもないだろう。それでも烏野高校に負けた。充分な重みを持ってのしかかっているだろう苦しみに耐える表情で、そして涙を流しながらも退場する彼らの姿に胸が締め付けられた。


私は数日前に、受験終了組だからと卒業アルバムに載せる写真の選択を任され、そのことについて体育館を後にして学校にいる担任の元へ行かなければならなかった。

何度でも鮮烈に浮かび上がる死闘にため息をつかずにはいられず、学校に着くまでも、話を聞きながらも、心ここにあらずと明後日の方を見ていた。

窓を開けた教室の端で、渡されたプリントを並べて棒立ちしている。誰もいないこの床に夕陽だけはやけに美しく光っていて、それにまたどうしようもない感情を、蓋を開けるように思い出さされる。

ずっと落ちかける夕日を眺めていた。
動きを捉えている訳でもないのに、ふと気付くと空がまた一段と紫に染まる空に胸が締め付けられた。

それから我に戻ったのは、ドアが動く音がしたからだ。そちらを振り向くと、少しの隙間を開けっ放しにしていた筈の教室の扉から瀬見が入ってきた。

何を言えばいいのかも分からず、狼狽える。

窓のさんに座るようにもたれ掛かっていた私の隣に、同じように体重を任せた彼は同じように空を見つめる。

少し戸惑いながらも言葉なく時間を過ごし、そろそろ時間的に帰った方がいいんじゃあ、と彼を見ると、しっかり前を見据えた目は潤んでいて、夕日をきらきらと反射していた。
辛うじて出かかっていた言葉も失い、目を逸らしてしまう。

窓一つは二人で腰掛けるには狭く、ふとした拍子に小指が触れ合ってしまう。
彼は今きっと堪えきれない感情にいっぱいいっぱいで、私どころではないだろう。
それでも触れ合う僅かな熱が私に拍車をかけるのは当然で、不謹慎ながら、と噛み締めた。


最終下校を告げるチャイムに私はいそいそとプリント達を鞄に詰め、窓を締めてぼんやりしている彼に向き直った。

口にこそ出さなかったが彼はどうやら送ってくれるようで、道に影を伸ばしながら人一人分の距離を空けて私の家に向かっている。しかしどうしたのか、少し遠回りをしているようだ。そして私はこのルートに、見覚えがある。

だんだん暗くなる街の中に小さな公園がぽつりとある。
そこは付き合ってた時に毎日のように話していた場所で間違いなくて、同じようにベンチに並んで座る。

普段は子供の姿で賑わうここも、今聞こえるのは仄かな風が木の葉を揺らす音だけだ。
ただそれに対抗するように心臓はずっとドクドク鳴っている。


相も変わらず俯いている彼だが、声をかけるのは躊躇われた。彼は少し泣きそうな顔をしているようだった。

声をかけることはできない。
だから、手を握った。
変わらない温かさが冷たくなってきた季節のせいで心地良い。苦しそうに呼吸した彼が縋るように手を握る。砕かれてしまう程の痛さも、彼に頼られてると思えば嬉しいものだ。

瀬見、と声をかけようとした。しかしそれは彼に引き寄せられたことによって遮られて、逆に息が詰まる感覚が占める。

私の肩口に顔を押し付けているようだった。腰に回された強い腕とは真逆で繊細に涙をシャツに染みらせる瀬見が愛おしくて仕方がない。
普段より髪の乱れた頭を撫でた。彼の腕に力が入る。

きっと彼は後輩の前では泣くのを我慢していたのではないだろうか。堪えきれない嗚咽が私の涙まで誘ってしまう。

ずっとそうしていて、日が暮れてもなにも気にならなかった。


ALICE+