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ユウとイトは学園で保護されることとなった。クロウリー曰く、保護者に連絡もつかない無一文の若者を放り出すのは教育者として胸が痛む、らしい。なんとなく胡散臭さを感じつつも、突如異世界に放り出されてしまったユウは彼の提案に乗るしかできなかった。ここで学園を出たとして、衣食住の確保は難しいだろう。
それはイトも同じだったのか、彼女もすんなりとクロウリーの提案を受け入れた。
ユウが言うのもなんだが、異世界に飛ばされたというのにイトはずっと落ち着いている。
肝が据わっている、と一瞬だけ考えて、いやいやと首を横に振った。
今でこそ身綺麗になっているが、彼女は血塗れでこの世界に降り立ったのだ。常識があるとは思わない方がいいだろう。
こっそりと隣のイトを盗み見する。
まだ幼さの残る顔立ちは普通の女の子にしか見えないけれど、身体中を覆いつくす黒いマントはユウのいた世界でも、そしてツイステッドワンダーランドでも浮いているように思えた。
「お化け屋敷みたい」
クロウリーはユウとイトを寮に送り届けるとそそくさと立ち去った。やることがあるから、と言って。
確かに学園長ともあれば入学式はさぞ忙しいだろう。そこにトラブルがいくつも降ってかかったのだから、後処理に追われていてもおかしくはない。
けれども彼は自分たちに何か突っ込まれる前に逃げたのだなと、二人はぼんやりと思った。
「築何年……?」
「大きな建物ではあるんだけどね」
掃除が大変そう、とイトが呟いた。
正面の建物は、確かに以前は寮として使われていただろう広さではあった。だが、ボロすぎる。外観も中も酷い有様だ。
一抹どころではない不安を感じながら、ユウは覚悟を決めた。どんなに古い建物だとしてもここに住むしかないのだ。屋根があるだけ立派ではないか、と。
クロウリーが用意してくれた掃除用具を一瞥する。ユウは学校の清掃の時間くらいしかまともな掃除などしたことがなかったが、見様見真似で箒を手に取った。
「私、掃除は結構得意だよ」
換気のために窓を開けたイトが得意げに笑う。ユウはぎこちなく頷くだけ。
元いた世界に帰るまで、ユウはイトと共同生活を送ることになる。そこに思春期の男女が一つ屋根の下で過ごすなんて不健全な、などと呑気なことはクロウリーの口からも発せられなかった。
行き場のなくなった視線が床に落ち着く。ユウはイトが単純に恐ろしい。あんなにも血を被っているのに飄々としていたイトが、普通の少女のように振る舞うイトが。
急に異世界に連れてこられたせいで弱気に、不安定になってしまったのだろう。ユウの血で赤く染まるイトの姿を想像してしまった。
しかしその直後、イトの瞳を思い出す。
「あの、今更だけど、僕はユウ。その……よろしくね」
顔を上げてイトを見れば、彼女は窓の外を眺めながら、やはり同じ瞳をしていた。
ユウと同じ色のそれは、幼い迷子のように揺れていたのだ。
よろしくすべきではないのかもしれない。異世界人同士とて、多分彼女は危険人物で、大人達も警戒していた。
それでもあんな顔を二度も見てしまって、それを見て見ぬふりなんてできなかった。
「私はイト。よろしくね、ユウちゃん」
「ユウちゃんッ?」
「嫌だった?」
「あ、いや別に……えっと、なら僕はイトちゃん……かな?」
「ふふ。好きに呼んでね」
ユウを振り向けば人当たりのいい笑みを浮かべてくれた。それどころか、なんとも友好的に片手を差し出した。
女性耐性のないユウは少しだけ耳を赤くしながら恐る恐る手を握る。もしかしたら初めて握った女の子の手は思っていたよりも硬くて、そして冷たかった。
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