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 蝋燭の頼りない灯りがクロウリーの足元を照らす。廊下の先までを照らすことはできない微かな光でも、彼の足は真っ直ぐと目的地に向かっている。
 足を動かしながら思考するのはあの異世界人達のことだった。魔法が使えない、話を聞けば魔法が存在しない世界から来たのだと。
 呼び寄せてしまったのは学園側の可能性が高いのだから、全く頭の痛い話である。闇の鏡も耄碌したな、と自身を棚に上げてクロウリーは溜息をついた。

 目的地に辿り着き重厚な一つのドアを開けると、ツン、と鼻をつく匂いが仮面越しにもそれはそれはよく届いた。
 浮いていた棺は皆片付けられていた。入学式の時よりも広々とした鏡の間には、役目を終えた闇の鏡と、乾いた血のついた棺があるだけだった。

「嫌ですねぇ。由緒ある棺なのに」

 まるで棺桶本来の使い方──死人でも入っていたかのよう。
 クロウリーは血溜まりに近づく。間違っても踏まないように細心の注意を払い、棺の中を見下ろした。

 それはイトを運んできたであろう棺だった。
 ぽっかりと空いた穴に、赤黒い血がこびりついている。どこもかしこも血だらけで、汚れていない部分を探す方が難しい。
 イトが帰る際の何かの手掛かりが見つかるかもと、片付けずにそのままにしていたものだった。

 しかしこうも血塗れでは調査のしようがない。棺の蓋の裏には手形のようなものがないので、彼女が自力で開けようとした形跡がないことだけ分かった。
 DNA鑑定にだけでも出しておくべきか。素手で採取などしたくないため、魔法でちょちょいと拝借した。

 杖を床につく。カツン、と小気味良い音が鏡の間に響く。

 火種が無くとも火は起こせる。みるみるうちに炎に包まれた棺を、クロウリーは黙って見続ける。
 魔法の炎は壁や床などには引火せず、棺だけを燃やしてくれる。そして辺りの血すらも、炎によって跡形もなく消えていく。

 極東のある国では棺ごと燃やして死者を弔う風習があるらしい、と、ふと思い出した。

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 クロウリーが再びユウ達のもとを訪れると、なぜか追い出したはずのモンスターがいた。そしているはずのイトの姿が見えなかった。
 少し目を離しただけですぐ面倒ごとを起こすユウ(正しくはグリムと名乗るモンスター)に呆れつつも、彼には猛獣使いの才能がある。
 上手く使えば今後何かの利益になるはずだと、グリムを追い出すことはやめた。

「それで、イトさんは?」

 一つの問題を片付けてもまた問題が出てくる。
 クロウリーが体を張ってグリムの魔力とユウの判断能力を測っている間も、やはりイトはいなかった。
 せっかくの夕食が冷めてしまう、と机の上を一瞥しながら問うと、グリムがわかりやすく肩を揺らし動揺していた。

「何か?」
「えーと、イトちゃんは、その」

 耳を垂らすグリムの代わりにユウが口を開いた。

 曰く、グリムは雨が降り始めると同時にこの寮にやってきた。換気のために開けていた窓から突っ込んできたのだという。
 ちょうど窓際に立っていたユウとぶつかるグリム。どうしてここに、とユウが問いかけるよりも前に、グリムはぎゅっと顔を歪めて鼻を抑えた。
「うーッ! クサイ、クサイんだゾ!!」
 グリムはイトを睨みつけていた。ユウは何のことか分からず、視線をイトに向けた。
 イトはすぐに理解していた。グリムが自身を嫌悪していることに。自身の血の匂いを畏怖していることに。
「ごめんね」
 肩をすくめたイトが部屋を出ようとしてドアノブに手をかける。この時、ようやくユウは悟った。
 血だ。血の匂いだ。
 ユウは魔法のお蔭で嗅覚が鈍っていて──その効果が今も続いているのか、もしや血の匂いに慣れてしまったのかは不明だが──側にいても感じていないが、人間よりも敏感であろうグリムの鼻はそうはいかなかった。

「それで、出て行っちゃって……」
「行方知れずに!?」
「あんな匂いさせてれば居場所なんてすぐわかるんだゾ!」
「だから! それがダメなんだって!」

 ユウがプリプリと怒るのを傍目に、クロウリーは思わず仮面の上から眉間を抑える。
 次から次へとエンドレス・トラブル。終わりが見えないのがかくも苦しいとは。

 イトの回収を第一優先に、頭の中でその後の予定を組み直す。まだこの寮に住まう珍妙な彼らについて、寮長たちへの連絡も済ませてないというのに。

「イトちゃんのところまでグリムが案内してね!」
「う、わ、分かってんだゾ」
「いえ、その必要はありません」

 カーテンがない窓の外に広がる森を一瞥してクロウリーは言う。木々が、動物達が騒がしい。
 また面倒なところに行ってくれたなと、長く深いため息を吐いた。

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