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カシャン、と小さな音と共に靴に何かが当たる。ツナは歩みを止めて俯き、足元を見た。シンプルな灰色のシャーペン。細身のデザインは女子受けがいいらしく、何人かの女子生徒が使用していたことをふと思い出す。
反射的に拾い上げて転がってきた先を見ると、笹川京子が筆箱を落としていた。
「きゃっ……あ、ごめんなさい!」
「こちらこそすみません。中身、拾いますね」
「ちょっと、派手にやったわね。階段の下まで落ちてるわよ」
京子とぶつかってしまったのであろう、エマが周りに散らばる文房具を集めていて、友人の黒川花が階段下まで降りて行く。
状況から察するにこのシャーペンも京子のものだろう。話す口実ができた、と少しだけ気分を良くしながら、彼女たちの元へと近付いた。
「京子ちゃん、あの、これ」
「あっ、ありがとう! ツナ君のところまで転がっちゃったんだね」
「これで全部? ……あ、沢田の足元に消しゴム」
「えっ?」「あら」
拾ってきたペンを京子に渡しながら黒川がそう言うと、ツナとエマが揃って足元を眺めた。
消しゴムはエマの近くにあった。なんだか以前にも似たようなこと──沢田と呼ばれて二人して反応してしまう──があったなと、始業式のあの日を思い出した。
「どうぞ」
「ありがとう、沢田さん。ツナ君も」
「二人とも沢田だったわね。まったく、ややこしいんだから」
「そ、そう言われても……」
名字などどうしようとないことに文句を吐かれても、やはりどうしようもない。京子は花の物言いに何故かクスクスと笑っている。かわいい、とツナは鼻の下を伸ばす。
京子が笑みを浮かべながら筆箱の中身を確認するのを見届ける流れになり、ツナも黒川も、エマまでもが立ち止まった。
「うん、これで全部。みんなごめんね、ありがとう」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
「私がぶつかっちゃったから、沢田さんは何も悪くないよ! 何も落とさなかった?」
「大丈夫です」
「なかなかの勢いでぶつかったのに、アンタびくともしなかったわね。鍛えてるの?」
「特には」
弾んでいるようにも見える会話をツナは眺める。京子も黒川も、エマと面識でもあったのだろうか。否、同級生なのだから認識はしていただろうけれど。
一人でいるイメージが強いエマが、だから女子生徒と楽しげに──笑んでいるのは京子だけだが──話しているのは珍しいと感じた。
そう思ったのはツナだけではないのだろう。廊下の真ん中で、あちこちからの視線が刺さる。
学園のマドンナである京子へ向けられた羨望の眼差しというよりかは、物珍しさから向けられるもの。組み合わせも相まってかなり目立っていた。
なんでダメツナが混ざってるんだ、とも。言葉にはせずともヒシヒシと伝わってくるから、なんだか居た堪れなくなり、ツナはひっそりと立ち去ろうとした。
「そうだ京子、委員会」
「あーっ、そうだった! ごめんなさい、もう行くね。二人とも本当にありがとう!」
ツナの足が動くよりも先に、京子と黒川が急ぎ足で立ち去った。委員会。用事があるのだろう。
また、といった意味であげた手が、所在なさげに胸の前で揺れる。忙しなくてもかわいいなぁと、京子の背を見届けている間にエマはいなくなっていて、向けられていた好奇の視線もすっかり消えていた。
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