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街灯の頼りない灯りが帰路を照らす。あともうちょっとでも気温が下がれば雪が降り出しそうな程に空気は冷え切っていて、吐いた息が白く浮かんではすぐにかき消えた。アスファルトの隅には、昼間降った雪の名残がうっすらと固まっている。
コンビニの袋が、かすかな風に音を鳴らした。この寒さだ、エマを送り届けたところで解けるはずもない。
隣を歩くエマを一瞥する。話してみたかった、という割には彼女は無言のままで、まるで今夜のような冷たい視線はずっと道の先に向けられていた。
「……家、こっち?」
「はい。しばらく道なりです」
ナビみたい。ツナは思って、流石に失礼だったかとその思考を散らす。
そしてまた話が広がるわけでもないから、静寂が二人を包んだ。本当に自分と話したいのだろうか。社交辞令を間に受けられた、とでも思われていないだろうか。
必死に頭の中で会話の糸口を見つける。天気の話、は、ありきたりか。寒いね、そうですね、で終わるのが目に見えている。
あとは──学校の話? 二人の間の共通の話題といえば、むしろそれしかない。
しかしクラスが違えば、話題の捻出のハードルはまた高くなる。
どうしようかと頭を悩ませる。すがるように夜空を見上げれば、薄雲の向こうに滲むような月が浮かんでいた。
「怪我をしていない沢田君に会うのは、なんだか新鮮ですね」
ふいに、エマがそんなことを言った。
「え゛っ……あぁ、うん、そうかも……」
不意を突かれて、情けない声が出る。ツナは咳払いでごまかしながら、手に持った袋を軽く揺らした。
「廊下で見かけても、いつもどこかにガーゼを貼っていますから」
「そんなことは……」
否定しかけた口が、すぐにしぼんだ。
そんなことは、ある。転んだり、殴られたり、ボコられたり。エマの前ではよく怪我をしていた。
そしてエマは、毎回ではないにせよ見かけたら必ず助けの手を差し伸べてくれた。
「あまり無茶ばかりだと、心配になります」
柔らかな言葉が、冷えた空気の中にふわりと溶けた。
心配。
ツナは足元の影を見ながら考えた。
改めて懐古しても、エマとはそんなに話したことがない。ただ、ツナが保健室に運ばれるたびに、怪我をするたびに、彼女が保健委員として手当をしてくれる、それだけの関係だ。
それなのに、どうして心配なんてしてくれるんだろう。
純粋な疑問は、しかし気恥ずかしさに上塗りされた。面と向かって心配など言われたら、思春期の男子中学生はどうしても恥ずかしさが勝ってしまう。
真っ直ぐな言葉を受け止めきれなくて、ツナはわざと少し声を弾ませる。
「そ、そういえばさ」
ポケットに突っ込んだ手を握りしめながら、話題を変える。
「シャマル、先生と、その……仲が良いんだね」
口にしてから、唐突過ぎたかと後悔するも時すでに遅しである。さっきもこんな風に、言葉にしてから後悔したばかりであるのに。
けれどエマはさっきと同じように、別段気にした様子もなく淡々と答えてくれるのだろう。
「え、そんな風に見えますか。それはちょっと、なんていうか……」
否。淡々と、ではなかった。ツナが思っていたより何倍も嫌そうな声色だ。
思わず俯いていた視線をエマに向けると、少しだけ眉尻を下げた彼女と目が合った。
「……嫌だった?」
「えぇまぁ、すごく」
「ご、ごめん」
普段は無表情な彼女が、ほんの少しだけ嫌そうにしたその雰囲気が、何だか新鮮だった。
同時に、表情は変わらないけれどその微妙な違和感に気づけたことが、どこか不思議に感じた。
ツナは、求めていた答えが得られなかったことに家に帰ってから気がつく。
それでも少しだけエマと距離が縮まったような気がして、その日は寝るまで、妙な満足感がツナの胸に薄く漂っていた。
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