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いつもの登校時間より15分も早く学校へ着いた。通学路も校内もまだ人気は少なく、朝練をしている部活動の声が遠くから聞こえる。普段なら一緒に登校しているリボーンも、今日はまだリビングでコーヒーを啜っていた。「今日は早いのね」と母親に言われ、説明する訳にもいかないので逃げるように家を飛び出した。
紺色のスクールバッグの中に、華やかなリボンのついた薄黄色の紙袋は良く目立った。
朝早くに渡そうと考えたのは、悪目立ちするのを避けるためでもあるが、主にリボーンや獄寺からの詮索を防ぐためでもあった。
エマに興味を持たれないように。勧誘や、獄寺なんかは勝手に敵視し誰彼構わず凄むから、そうならないように。賢明な判断である。
それに、友人をゾロゾロ連れていくのも悪い気がした。
C組の教室内はまだ人がまばらだった。開いたままのドアからそっと中の様子を伺うが、エマの姿は見当たらない。
エマの登校時間を把握しているはずもなく、ツナは少しだけがっかりする。人が増える前に登校してくれないかな、とチラリと壁掛け時計を見遣った。
「おはようございます、沢田くん」
そう名前を呼ばれたのは、C組のドアから身を引いた時だった。いつの間にか横に立っていたエマは、スクールバッグを肩にかけている。
「あっ、お、おはようッ、沢田さん!」
驚きで思ったよりも大きな声が出てしまった。まずいと口を塞ぐも、教室内や廊下からは不躾な視線が向けられる。
対して、目の前のエマは気にしていないようだった。「C組に何かご用ですか?」と問いかけている。
今し方登校してきた様子のエマにとって、ドアを塞いでいたツナは邪魔だったのだろう。だから声をかけてくれた。その気遣いが、今のツナには大変ありがたくラッキーであった。
「その、沢田さんに用があって」
「私ですか? 一体何が……」
エマの声が不自然に途切れる。不思議に思い彼女の顔を見ると、エマの視線は教室内に向けられていた。
ツナもそれに倣うと、何やら同級生たちがこちらを見てヒソヒソと囁いている。
別クラスの沢田同士、そして色々な意味で有名な者同士。先程の大声もあってか、注目を浴びていた。
「場所を移しましょうか」
エマはスクールバッグを抱えなおすと、ツナに着いてくるよう促した。
移した場所は保健室だった。やはりと言うべきかシャマルの姿はなく施錠もされていたが、エマは制服のポケットからカギを取り出すと簡単に開けてしまった。
「あの人はフラフラしてるから、施錠を任されてるんです」
ツナの心の内の疑問を見透かしたようにエマが言う。成程と納得したが、彼女の言い方がまたしても引っかかってしまった。
どういう関係性なのだろう。もう一つ生まれた疑問は、けれどエマは見透かしてくれないようだった。
「歩かせてしまってすみません」
「オレの方こそ、ごめん、急に……なんか見られてたから、歩くのは全然」
「沢田くんは有名ですからね」
悪い意味で、とツナは語尾に付けたくなるのを我慢して力なく笑う。それに見られていたのは自分だけじゃなくてエマも有名で、接点なんてないような二人がいたから目立ってしまったのだろうに。
ふるり、肩が震える。保健室は人がいないのもあるのか肌寒く感じる。
早く要件を済ませようと、バッグを漁った。教科書類は全て置き勉のため、漁るほど中身はないのだが。
「あの、これ! この前のお礼というか、お詫びというか」
可愛らしい包は少しだけしわになっていたが目立つほどではなかった。エマに差し出して頭を下げる。
一礼の後にエマの顔を見ると、いつもの無表情ながらも、少しだけ驚いている気がした。
「ハンカチ、ダメにしちゃったから……こ、好みじゃないかもしれないけど、よかったら」
「……わざわざ、選んでくれたのですか?」
「うん、オレこういうの分からないから、女の子の友達に手伝ってもらったんだ。だから変じゃない、と思う」
京子と一緒に無難なものを選んだつもりだった。選びながら、気を遣わせない値段のものにするといいのだと教わった。
やはり女子は贈り物に関して、男子より何枚も上手なのだろう。値段がどうのラッピングサービスだの、ツナには全く考えがなかった。
楽しそうに棚を眺める京子の姿は誰よりも可愛らしかった。思い出して、幸福な時間だったと噛み締める。もたらしてくれたのがエマだと思うと、ますます受け取って欲しい思いが強くなった。
エマはしばらくしてから、ゆっくりと紙袋を受け取った。両手で包み込み、何よりも大事そうに手に持って。
「ありがとうございます。お気を遣わせてしまってすみません」
「オレが勝手にしたことだから! それに、本当にあの時助かったんだ」
迅速な処置に身体的に助かったのとは別で、精神的にも救われた。
一人で座り込んでいるツナに、手を差し伸べてくれたのはエマが初めてだった。
「だから、本当にありがとう」
表情こそ変わらなかったが、ツナにはなんとなく、エマの纏う雰囲気が柔らかくなった瞬間を感じ取った。ほんのわずが、気のせいかもしれないけれど。
「大切に使います」
そう言って受け取ったエマに、ツナは満足そうに微笑んだ。
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