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「群れすぎ」

 ツナが覚えている最後の言葉だった。

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「い゛っ……ッッ!?」
「10代目! 目が覚めましたか!」

 意識が急激に覚醒すると同時に、身体中を激痛が襲う。
 あまりの痛みに一瞬息が詰まった。呼吸をしようと喉を開くその動作までもが痛くて思うように動かなくて、つまり身体中の其処彼処がとんでもなく痛い。

「大丈夫ですか!?」

 何も大丈夫ではないが、獄寺の必死な形相に反射的に頷いてしまった。救急車でも呼ばれたらたまったものじゃないからだ。

 特に痛むのは下腹部だった。ズキズキと他よりも一際強く痛みを主張してきて、重たい腕で患部をさする。
 そのツナの手に、そっと冷たい何かが当たった。

「冷やしてください」

 獄寺とは反対側のベッドサイドにあるイスに腰掛けるエマの腕がツナの身体に伸びている。

「沢田さん……?」
「シャマル先生に呼び出されました。また怪我をされていますね」

 呆れたような諦めたような視線が痛い。怪我も痛いし。ツナは苦笑いしかできない。
 保冷剤をあててくれたらしく、ツナがありがたくそれを受け取るとエマの腕は離れていった。

「あのヤブ医者ッ、とんずらこきやがって!」
「まぁまぁ、沢田が来てくれたしいいじゃねぇか」

 ソファに座っていた山本の腕にはテーピングが施されており、細かい傷にも絆創膏が貼られていて、手当てを受けたことが分かった。

「風紀委員長に殴られたとか。覚えていますか?」

 エマの言葉で少しずつだが思い出してきた。事態を飲み込み、あの悍ましい記憶に顔を顰める。

 ツナたちは先程、雲雀恭弥にボコボコにされていた。
 ランボが並中に入り込みイタズラをするので、どうにか連れて帰ろうと躍起になっている間に、手榴弾で抵抗されたりランボを追ってきたイーピンも応戦したり……。
 獄寺と山本も一緒にいて、チビたちもいて。どうやら虫の居所が悪かったらしい(それとも、自分たちの騒ぎで機嫌が悪くなったか)雲雀に運悪く遭遇してしまい、トンファーの餌食となった。
 途中、死ぬ気弾を打たれたツナが威勢よく雲雀に立ち向かったものの、あっさりと返り討ちにされた。思い出すたび傷が痛む。

「って、ランボたちは……?」
「騒ぎの最中にいなくなってたぜ」
「騒ぐだけ騒いでッ……いっででで!」

 いつもの癖でツッコむと腹部が痛んだ。服で隠れているけれど、アザが出来ているだろうことは見なくともわかる。
 先ほど受け取った保冷剤をあてると、いくらか痛みが和らいだ気がした。

「軽い手当てしかできないので、ちゃんと病院で診てもらってください」
「うん……ありがとう、沢田さん。いつもごめんね」
「仕事なのでお気になさらず」
「沢田は保健委員なのか?」
「はい。私以外の生徒は辞めてしまったので、委員会として機能はしていませんが」
「一人だけ? なんでまた……」
「あの変態ヤブ医者を見てればまぁ納得だな」
「あぁ……」

 獄寺の言葉にツナは察してしまった。エマもまた、言葉には出さなかったがこくりと頷いている。
 どうりで体育祭の救護テントにも二人しかいなかったはずだと、仕事をしていたのはエマだけだったことも思い出す。

 というより、シャマルがまともに仕事しているところなど見たことがない。きっとエマは保健室の最後の砦として残ってくれているのだろうと勝手に想像し、心の中で改めて感謝した。

「だから手際がいいんだな。腕のテーピング、プロ並みだぜ」

 山本が軽く腕を振り、動きに問題がないことをアピールした。素人から見ても綺麗に施されている。
 確かにエマの手際は良い。以前から知っている事だが、ここまで重傷を負った際の処置までも的確であるから、ツナはエマの手元をついマジマジと眺めていた。

「ケッ、んなの誰だって出来らぁ」
「獄寺もやってもらえばいいじゃねぇか。自分でやるより楽だぜ、うまいし」
「私でよければ。沢田くんの次に」
「いらねーよ。それより早く10代目の手当てをしやがれ」

 女子相手にも態度は変わらず。吐き捨てるような物言いだったが、エマは気分を悪くした様子もなく手を動かしていた。
 獄寺を前にして顔を赤くも青くもしないのは珍しいというかエマらしいというか。エマのことは上辺しか知らないけれども。

 優しい手つきで腕に包帯が巻かれる。緩すぎずキツすぎない、まさに丁度よい塩梅。
 それだけで痛みも引いてきたような気がして、ツナはエマに身を任せた。

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