七海、と遠くから、近くから声がして重たい瞼をどうにか開く。この声は、優しくて清らかで、まっさらなあの人の声だ。どこか切羽詰まったようにも聞こえるその声が、懸命に自分の名前を呼ぶから。どうしたんですか、と開こうとした唇もまた重くてうまく動かない。目、覚めた?とこちらを覗き込んだ顔が予想以上に近くて、喉が小さくひゅっと鳴った。慌てて起きあがろうとして、胸部に走った痛みで漸く、ここがどこであったかを思い出す。
初めて2人だけで訪れた任務先で、最後の一体を祓い終えた瞬間に最後の足掻きで壁に飛ばされて体を強く打ちつけたのだ。彼にいいところを見せたい、と力が篭っていた自覚が、ほんの少しある。結局心配そうにこちらを覗き込む彼を見る限りいいところを見せるどころかかっこ悪い姿を晒してしまっている事実に、もう一度気を失ってしまいたくなった。
歩けるかと尋ねられて身を起こす。骨が折れている感じはしないので、肩を貸そうかと掛けてくれた言葉は丁重にお断りした。帳を抜けて車に戻るために並んで歩みを進めていると、隣の彼が口を開く。七海強いね、かっこよかったよ。と覗き込むように言われて、単純な心臓が馬鹿みたいにドクンと音を立てた。でも無茶するのはよくないとこだね。と揶揄うように笑う顔が可愛くて、思わず胸のあたりを押さえると、傷が痛むのかと心配されてしまった。