子供の頃、唐突に五条先生に紹介されたその人。忙しい合間を縫って様子を見に来てくれていることには幼いながらに気付いていて。めぐみくん、と柔らかなあの声で名前を呼んでもらうのが好きだった。時々、姉の代わりに作ってくれた料理が好きだった。そっと繋いでくれた、暖かな手が好きだった。
だから、久々に訪れた彼の首にかかっているチェーンの先にある指輪を見た時、言い表せられない感情で押し潰されそうになった。高専に入ることが決まって荒んでいたこともあり、姉に叱られることが増えて、――それから、姉は深い眠りについてしまった。
自分では何も解決できない問題に心をぐちゃぐちゃにされる感覚は不愉快で、気持ちが悪くて、ある日姉の見舞いに来たのだという彼の腕を思い切り引いて、自分の腕の中に閉じ込めた。めぐみくん?と動揺した声をあげたその人は、思い出の中の彼よりも随分頼りないなと思った。背なんてもう変わらない。ぎゅっと抱きしめた体は、もっと鍛えろと五条に言われた自分より更に薄い。不安のあまり甘えたのだと勘違いした彼の腕がそっと動いて、頭を撫でる。その優しい手つきだけは変わらなくて、つい、涙が出そうになった。