ゆうれいには聞けない

「マツバがみんなと馴染めてて良かったよ」
「それってどういう感想?」
「まるで親のような気持ち……」
「ふうん」
 パシオの一角にあるカフェ、テラス席でハロウィン色に染まりつつある景色を優雅に眺めてコーヒーを飲んでいた私の席に現れた馴染みは、私がやけにニコニコとしていたせいか、その整った顔を少しだけしかめて相席となる椅子を引いた。
 やってきたウエイターさんに私と同じものをとシンプルに頼むと、連れていたフワライドに遠くにいかないようにねと優しく呟く。フワライド特有の鳴き声がひとつ聞こえて、その姿が消えたのは果たしていいことなのか、悪いことなのか。詳しく聞けないままでいると、相席になった長い足をテーブルの下へと仕舞い込んだマツバは、私に向き直った。
 そのタイミングで発した冒頭の言葉。マツバが不服そうに眉を寄せるのも、正直言えば納得できた。私が言ったことなのに。
「ボクだって大人なんだから、それくらいは出来るよ」
「うん、うん、そうだよね。私安心しちゃったよ。マツバがキクコさんとシキミさんと仲良くパーティ組んでるの見て」
「ボクのこと子供扱いしてる?」
「してないよ、してない」
「きみは昔からそうだよね。ボクと、それからハヤトくんのことも子供扱いする」
「だからしてないって」
 普段は穏やかに微笑んでいるマツバの顔が、心なしか来てからずっと不服そうにも見えた。といっても、マツバは穏やかそうでその実ポーカーフェイスなタイプだから、簡単に見抜くことも出来なくて、嘘か真かを見抜けないままこうして接している。なんとなく、本気のような気がしないでもないけれど、さっきフワライドに向けていた視線と似たものを感じるから、きっと気のせいだとして。
 ウエイターさんが私の飲んでいるものと同じものを運んでくる。ニコリと微笑んだマツバが「ありがとう」と穏やかに言った。その声は私に向けられているものと一緒で、やっぱりなと心の内で安心する。運ばれてきたブラックのコーヒーにそのまま口をつけたマツバは、ひと段落してから視線をハロウィン仕様のパシオの風景に移した。
「島がこんな様子だからかな。色んな子がいるね」
「……突然のホラーやめてもらっていいですか」
「おや、悪い子はいないよ」
「突然トリック・オア・バトル申し込まれたらどうするの。ゆうれいに」
「ボクときみがパーティを組めばいいよ。きみとなら上手く合わせられる気がしてる」
「……今日の私のバディーズ、バケッチャだよ?」
「きみがゴーストタイプか。いいね、楽しそうだ」
「ゆうれい相手に……?」
 頭の中でよみがえる、タチサレ……の声。ゆうれい相手のバトルなんてあれきりにしたいものだと思っていたのに、マツバと一緒にいるとすぐにそういう展開が待っている気がして本当につらい。私は心の底からオバケや幽霊というものが苦手だというのに、マツバは逆にそういうものばかり集めてくる。いや、集まってくるというか、しかもそれを見抜いてしまうというか。
 昔馴染みをやっていることすら信じられないと思うけれど、彼のフワライドがフワンテとして彼の周りをフヨフヨ浮かんでいた頃を知っているくらいなので、まあ昔馴染みなんだろうなとは思う。ちなみに、ハヤトくんはマツバのお友達なのでよく知っている。ゴースが集まってきたときに目が溢れそうなくらいに驚いていたのは記憶にも新しい。
「ハヤトくんはパシオに来ないのかなあ」
「……来てほしい?」
「うん。楽しそうにしてるハヤトくん見てみたいもん。みんなと馴染めるかな?」
「またその感想だ」
「まるで親のような気持ち……」
 本日2回目である。いい加減に慣れてしまったのか、マツバが大きなため息をひとつついて、コーヒーカップに口をつけた。ハロウィン仕様のダークポップな飾りが、テラス席の隅でゆらゆらと揺れている。かわいいカボチャだな、と思っていると、不意にマツバが口を開いた。
「あの飾り」
「?」
「揺れているのは風のせいじゃないよ」
「……ねえ、やめてほんとに、ねえ」
 ホラーはマジでやめてくれって何度も言ってますよねと、優雅にコーヒーを啜りながら口元に手を当てて笑うマツバを軽く睨み付ける。まったく効いていないマツバは、私のにらみつけるの攻撃をスルーすると、首もとに巻いたマフラーを軽く引き上げて笑った。
「ボクのことを子供扱いした罰だよ」
「いやあ、めっちゃ効く……」
「大丈夫だよ。ボクといれば何も危害は加えられないはずだから」
「……信じてないわけじゃないけどさあ」
「きみはボクの大切な子だから、変なことしないであげてくれるかいって言ってあるんだ」
「……深い意味ではなく?」
「ご想像にお任せするよ」
 はは、と笑ったマツバが、もう一度コーヒーに口をつける。どこからともなく聞こえてくる子供たちのはしゃぐ声や大人たちの声、道端の雑踏の中でなんともなく呟かれた言葉に、私はその意味を考えながらしばらく頭を抱えて過ごしたのだった。相席のお礼にと伝票は持ってくれたけど、それどころじゃあないと思いますが?