「おはよ、ダンデくん」
「……まさか先を越されるとは!」
「今日は迎えに来たよ」
いつも迎えに来てもらってばかりだと申し訳ないからと、今日は逆に迎えに来てみれば、ダンデくんは少しビックリしたような顔をしてから、私を笑顔で迎えてくれた。
ご実家から離れて暮らすダンデくんの住んでる部屋への道は慣れたもので、最初こそリザードンの背中から眺めていた道も、地上からでも行けるようになってきた。といっても、ダンデくんの後ろについていけば、あっという間に迷ってしまうのだけれど。
玄関先で微笑むダンデくんも、服を着替えてマフラーまでしているところを見ると、すぐにでも出掛けようとしてくれたことが伺える。少しでも早く出ようとしてくれるところが、なんとも可愛らしい。と言うと、ちょっとだけふて腐れるから言わないでおくとして。冷たい風が吹く外から、ダンデくんはとりあえずといって玄関に引き込んでくれる。風から解放された私が顔を埋めていたマフラーをぐっと下ろすと、ダンデくんのあたたかい手が頬に触れた。
「すまない。冷たくなってしまったな」
「平気だよ、気にしないで。歩いてるときはそんなに寒くなかったし」
「鼻も赤い」
あたたかい指先が、私の鼻をつついて、それからなにを思ったか急にぎゅっとつままれた。思わず悲鳴をあげた私に、ダンデくんがからりと笑う。笑ってる場合じゃないんだからとその手を掴んだら、そのままゆるりと繋がれた。ダンデくんのあたたかくて大きな手のひらが私の冷たい手をすっぽりと覆う。
「大きいねえ」
「キミに比べたらな」
「あったかいし」
「家の中にいたからな」
「……出掛けよっか」
「もう少し、このままだ」
握られた手にぎゅっと力を込められて、それから玄関先で優しく抱きしめられる。お互いに厚めのコートを着ているから、いつものダンデくんの筋肉質な身体を抱きしめ返せないけれど、それでもそのぶあつい胸板に顔を寄せられていることには、ダンデくんも気が付いたようで。楽しそうに笑う声がして、それから抱きしめる腕に力がこめられた。ぎゅっ、と寄せられて、ダンデくんの甘い声が落ちてくる。
「出掛けたくなくなるぜ」
「もお! 今日こそ出掛けますよ!」
「はは、厳しいな!」
寒くなると巣籠もりしたくなるとはこのことで、ここ最近のダンデくんとのデートも室内で過ごすことが多くなっていた。さすがに外に出たいとごねた私のリクエストで今日は外に出ようということになったんだけれど、結局はダンデくんが無事に集合場所に来ることができるのか不安で、こうして迎えに来てしまい、手招きされるがままに慣れたダンデくんの部屋に入ってしまった。それがいけなかったのかもしれない。というよりも、まさかダンデくんはそれを見越していたりして。
「……ダンデくんって、したたかだよね」
「したたか?」
「いや、したたかじゃないとチャンピオンはやってられないよね、ウン」
「オレにも分かるように話してくれないか……」
ひとりで納得するなんて寂しいぞ、と眉を下げる姿は少しかわいいので、やっぱり黙っておくことにする。しょんぼりするその手を少し強引に引いて玄関から引っ張り出すと、ダンデくんは慌てて玄関の鍵を閉めて、それからしっかりと自分、ではなく私のマフラーをきゅっと直してくれた。「これでいい」と笑う姿に、ちょっとだけきゅんとする。
「さて、キミがときめいてくれたところで今日はどこに行きたいんだ?」
「……バレてるのがちょっとムカついちゃう」
「キミをムカつかせるのも、オレだけの特権だぜ」
「ううう、今日は勝てない〜!」
「ははは!」
繋がれた手を優しく引かれて、風の吹く外に足を踏み出す。やっぱり寒いとマフラーに顔を埋める私の風上で、ダンデくんはオレがこっちに立つぜと笑ってくれた。