待ち合わせ

今日もまた失敗した、と思いながら待ち合わせ場所に到着する。1度でいいから彼より先に到着して「待ったか?」「ううん、いま来たとこだよ」というやり取りをしてみたいと思っているものの、なかなかそうさせてくれないのが彼で。待ち合わせ場所、高身長でスタイルが良くて、すらりと長い脚を持て余すように座っていた彼が一体何者なのか。変装をしているつもりであろう彼には言いづらいが、バレバレだった。「あれキバナじゃね?」「こんなとこにか?うわ、マジだ」本人は聞いてるのか聞いてないのか、スマホをついついとつついていた。
いつまでもこんなところで観察していてもいけないなと、噂の聞こえる待ち合わせ場所へ足を踏み入れる。私に気が付いたキバナさんは、にこにこと満面の笑みを浮かべながら立ち上がった。

「おはよ、ナマエ。今日もスゲーかわいいな」

開口一番に飛んできたべた褒め発言をさらりと言えてしまうキバナさんだけど、その無邪気な笑顔に彼が素だということが感じ取れて、素直に嬉しいと思える。というより、シンプルに私を喜ばせる天才だ。それに関しては勝てそうにない。
私を待ちながらも探していてくれたのか、スマホを触りながら今日はどこへ行こうかと呟くキバナさんの隣で、尋ねてみた。どうしていつも待ち合わせに早く来るの?今日だってだいぶ早かったのに、それより早いなんて。キバナさんはスマホに向けていた視線を私に向けると、きょとんとした顔で首を傾げた。

「アタリマエだろ?彼女待たせるとかオレからしたらありえないな」

でも、早く来るとその分目立つんじゃ……。先ほどの待ち合わせ場所で囁かれていた声を思い出して少し暗くなる。きっとキバナさんの人気もあるから、私と出掛けたことなんてまさに秒速で拡散されていくに違いない。現に、先日出掛けたときは微妙に炎上した。キバナさんのSNSが。

「別に目立っても関係ねえよ。オマエと付き合ってるのも隠すつもりない」

さりげなく取られた手が優しく握られる。撮るなら撮れってんだ!と笑うその顔が眩しくて、私もつられるようにして笑った。

「それに、オマエが待ち合わせに早く来るの分かってるし。オレも早く来れば、デートの時間のびるだろ?」

オレって天才!とニコニコ笑うキバナさんに、私の企みなんてきっと企みだけで終わるんだろうなと思った。いくら早く来ようとも、それ以上に早く来るのがキバナさんだ。いつから待ってるの?という言葉は、彼の優しさのために言わないことにした。

「あと、オマエの方が早く来てナンパにでもあったらオレそいつのことボコっちゃいそうだしよ」

さらりと物騒なことを言ってのけたキバナさんに、ナンパなんてされないよと思いながらも、先に来るのはよそうと思ったのはここだけの話ということで。

200123