「ワタルの手って大きいよね」
にぎにぎ。にぎにぎ。
そんな音が聞こえるんじゃないかというくらいにおれの手を握りこんだ彼女が、不思議そうに首をかしげる。だけど、正直そんなに不思議に思うまでもないんじゃないかと思うのは、おれ自身そんなことを言われたことがないからだろうか。
至って通常サイズではないかと思う。確かに、おれの片手を両手で掴んで握りしめる彼女の手の小ささからしたら、大きく感じるのかもしれない。でも、男はみんなこの程度だと思っていたから、そんな風に改めて言われてしまうと、少しだけ気になるのもたしかで。
「そうかい?普通だと思うけど」
「ええ?私の周りでは一番大きいよ」
「……誰と比べたのかは聞かないでおくことにするよ」
「え?!やましいことじゃないからね?!」
おれの手を握りしめる彼女の楽しげな表情を見ているだけで幸せな気持ちになれるのに、ふと飛び込んできた聞き捨てならない言葉に、思わず彼女の言葉に噛みついてしまう。大慌てで否定する彼女の様子から、本当にやましいことはないんだろうと分かったけれど、おれが案外嫉妬深いってことは、この際だから全面に押し出しておく。
「……なにもないからね?」おれの手を握りしめて、控えめにもうひと押ししてくる彼女の不安そうな瞳が本当に愛おしいと言ったら、きっと彼女は真っ赤な顔で怒り出すに違いない。簡単に想像がついて、頬が緩んだ。
「はは、心配なんてしてないよ」
「……ほんとに?」
「ああ。だってナマエはおれが大好きだろう?」
「う、」
「もちろん、おれもナマエを愛してる」
だから心配する必要なんてない。そう伝えてから、彼女に捕らえられていない手のひらを彼女の頬へと伸ばす。曰く、周りでは一番大きいおれの手のひらを受け入れた彼女は、はにかむように微笑んだ。
まるで、懐いてゴロゴロと喉を鳴らすニャースのようだと言ったら、彼女は怒るだろうか。怒った彼女すらも愛おしいのだから、想像だけで頬が緩むのは仕方がないけれど。
「やっぱりワタルの手は大きいし、きもちいい」
そういうのは、反則って言うんだよ。
おれの手のひらにすり寄る彼女を見つめて、心からそう思う。なんともない日常をあっという間に無意識に彩ってしまう彼女は本当に罪深くて、そして何よりも愛おしくて。
さりげない仕草や行動が、おれの心を震えさせるなんて、思ってもいないんだろう。おれがきみを深く愛すると共に、一緒になってドロドロに溶けて合ってしまいたいと思う感情に突き動かされることがあるとは、つゆほどにも。
握られていた手のひらを握り返し、彼女の頬に寄せていた手のひらをひっくり返す。そのままくすぐるように手の甲で彼女の頬に触れると、案の定くすぐったそうに笑った彼女がおれの名前を呼んだ。
沸き上がる感情の波に押し流される。
彼女の華奢な顎を掴むと、そのまま唇を重ねた。
「ッ、ん!」
「……」
柔らかい唇にもっと吸い付きたい。彼女のすべてを喰らい尽くしてしまいたい。必死で息をする彼女の手のひらを視線を絡めとると、おれはじっと彼女を見つめた。
彼女から見たら、おれは一体どう映っているんだろう。熱を孕んだ瞳でいることは自覚しているから、まるで飢えた竜のように見えるだろうか。唇を離して、至近距離で見つめ合う。彼女が、上から見下ろすおれの首に腕を回した。
「その手で、もっと触れて」
ゾクゾクと、背を駆け抜けていく何か。彼女を大切にしたいのに、めちゃくちゃにしてしまいたいという衝動。思わず喉が鳴る。ああ、やはりおれは竜だったのかもしれない。
「お望みとあらば、いくらでも」
おれを挑発するその生意気な唇に、おれを誘う滑らかな喉に、おれはガブリと噛みついた。